Chapter-50 2004年ノーベル賞 自然科学分野
2004年10月30日
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ノーベル賞はニトログリセリンとケイ藻土を混ぜたダイナマイトを発明したスウェーデンの化学技術者・事業家であるノーベルの遺言と遺産によって1896年に設定された賞で、その遺産で作られた基金が現在500億円程度あると思われますがその利息をもって、毎年10億円程度を使って、物理学・化学・医学および生理学・文学・世界平和・経済学にすぐれた業績をあげた人に賞金・メダルなどが贈られるものです。
ノーベル賞には6つの賞があり、それらは「医学・生理学賞」「化学賞」「物理学賞」「文学賞」「平和賞」「経済学賞」ですが、このうち「医学・生理学賞」「化学賞」「物理学賞」のみっつを自然科学分野といいます。
今年も自然科学分野のすべてのノーベル賞受賞者が決まりましたが、今年は残念ながら日本人の受賞はありませんでした。近年の自然科学分野の傾向として、私たちの生命活動や、この世界の成り立ちといった根元的な問題に取り組む基礎的な研究が受賞しており、今年は「においを認識し、記憶するメカニズム」「極小な素粒子はどう結びつき、物質を形作っているのか」「体内で不要になったたんぱく質は、何をきっかけに分解されるのか」といった研究に対するせいかがノーベル賞として認められました。
今週のヴォイニッチの科学書ではこれらの自然科学分野のノーベル賞の受賞内容を紹介します。
■医学・生理学賞
リチャード・アクセル教授(アメリカコロンビア大学)
リンダ・バック博士(アメリカフレッド・ハッチンソンがん研究センター)
私たちがにおいを感じるしくみを簡単に説明すると、鼻の中ににおいの原因となる分子が結合できる受容体と呼ばれるタンパク質があり、ここに特定のにおい分子が結合するとそのにおいを感じたと脳が判断します。受容体とにおい分子は鍵と鍵穴のようにほぼ組み合わせが決まっています。研究者らは、その受容体の種類は約1000種類あり、それぞれ個別の遺伝子から作られることを突き止めました。実はにおいの原因分子は1万種類以上あると言われています。1万種類以上のにおいを1000種類の受容体だけでかぎ分けることができるのは、様々なにおいに応じて複数の受容体が反応し、その反応した受容体の組み合わせで多様なにおいが認識できるのだそうです。
受容体の種類は1000種類ですが、その受容体を持っている細胞、これを嗅覚神経細胞といいますが、嗅覚神経細胞は鼻の空洞の中に約1000万個あります。一つの嗅覚神経受容体には一種類のみのにおい受容体があり、この膨大な数の細胞の一つ一つからにおいに関する情報を脳に伝えるために「軸索」と呼ばれる形態に細胞が変化して情報を伝えるケーブルがのびています。このケーブルは「嗅球」という脳下部の組織に存在するにおい受容体情報の受け口までつながっていて脳へ情報が送られます。
■物理学賞
デビッド・グロス教授(米カリフォルニア大サンタバーバラ校)
デビッド・ポリツァー教授(カリフォルニア工科大)
フランク・ウィルチェック教授(マサチューセッツ工科大)
その研究成果は素粒子の結びつきについてのもです。この世のすべての生物も物質も、素粒子と呼ばれる微少な粒子で出来ています。素粒子は大きく分けると「クオーク」と「レプトン」という二つのグループになりますが、このうち原子核に含まれている陽子や中性子を形作っているクオーク同士を結びつける力が、今回の物理学賞の対象となった「強い力」です。
クォーク・・・アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトム
レプトン・・・6種類でその中には電子が含まれます
宇宙の誕生の際に素粒子はばらばらでしたが、宇宙誕生直後に重力、電磁気力、強い力、弱い力の4つの力が生まれてこの世界が形作られます。
四つの力について説明しておくと、重力は私たち日常生活で知ることのできる力で作用範囲は無限大で、月と地球、地球と太陽、厳密には地球と遙か彼方の星の間にも作用しています。けれども重量が作用するにはある程度の重さが必要ですので原始の世界ではこの力は働きません。電磁気力はプラスとマイナスの間に働くような作用で力の及ぶ範囲は重力に似ていますが、重さは関係しないので原始の世界でも働いています。強い力は先ほど説明したような原子核を形作るような力、弱い力は強い力よりもさらに狭い範囲で作用する力でニュートリノは唯一この弱い力の作用を受けます。
ノーベル賞受賞の対象となったのは重力や電磁気力磁力は、力を及ぼしあうものの距離が近づくほど強くなりますがが、強い力は近づくほど弱く、離れるほど強くなるのが特徴でこの不思議な特徴を説明する理論を確立し、実験によってそれを証明したことに対するものです。原子核が丈夫でなかなか壊れないのは、壊れれば壊れるほど強い力で元に戻ろうとするという不思議な振る舞いをするからです。
■化学賞
アーロン・シーカノーバ氏(テクニオン・イスラエル工科大学)
アブラム・ハーシュコ氏(テクニオン・イスラエル工科大学)
アーウィン・ローズ氏(米カリフォルニア大学アーバイン校)
授賞理由は、「ユビキチンが仲介するタンパク質分解の発見について」でした。
植物や人類を含む動物などすべての生物は、タンパク質で構成されていますが、これまでタンパク質の関する研究はその合成や機能についてが中心でしたが、今回の研究は不要になったタンパク質の分解に関するもので、ユビキチンと呼ばれる小さなタンパク質が不要タンパク質に結合し、「このタンパク質はいらなくなったゴミですよ」という看板の役目を担うプロセスを解明しました。
細胞の中に含まれている不要になったタンパク質を分解する機能はこの看板のあるものを選択的に分解していると言うことです。この仕組みが傷つくとパーキンソン病やがんなどになってしまいますので、人間が健康に生きていくためにも是非解明しなければならない重要な機能へのアプローチだったといえます。アメリカではこのユビキチンの機能を利用した抗ガン剤が使用されています。つまり、がんという病気は細胞分裂が暴走してしまう病気ですが、厳密に言うとこれは細胞分裂が暴走することを防ぐブレーキの機能が壊れた病気です。この抗ガン剤はブレーキを壊す物質にユビキチンの看板をつける機能を持っており、それが抗ガン作用につながります。
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