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■宇宙空間の巨大なリング ■天の川銀河はこんな形?? ■ |
Chapter-51 ビールに放射線防護作用が 1982年に東京大学出版会から発行された書籍「医師の証言 長崎原爆体験」にお酒を飲むことにより原爆被爆後の病体が良くなったという記載があります。またチェルノブイリで発生した原発事故の際にもそのような噂が広まりました。ビールが放射線から体を守るのかもしれないというこの説について東京理科大学と放射線医学総合研究所の研究チームが科学的な考察を加え雑誌アイソトープニュース2004年11月号で結果を報告していますのでこの記事を今週は紹介します。 ビールには数パーセントのアルコールが含まれています。DNAを切断する働きを持つラジカルをアルコールが補足し、DNAの損傷が軽減される現象があることは1972年にすでに報告されていましたので、ビールの効果もこのメカニズムに従うものであろうとの仮説を立て、まずは1972年の報告を再現することが出来るかどうかを確認したところ、確かにビール中のアルコール成分であるエタノールは放射線からDNAを守る働きがあることが確認できました。 また、1996年の岡山大学薬学部の研究者らによる報告によるとビールの中にはシュードウリジンという物質が含まれていて、このシュードウリジンに肉や魚の焦げに含まれる発ガン性物質からDNAを守る働きがあることが明らかにされました。この件についても再確認するために血液にシュードウリジンを添加して放射線を当ててみたところ確かにDNAに異常が発生する割合が低下することが確かめられましたが、そのメカニズムについてはよくわかりませんでした。 以上のことから確かにビールには放射線から体を守る作用があるらしいことがわかってきましたが、これまでに実験は細胞にビールを添加してそこに放射線を当てる実験でした。これを人間に置き換えると、ビールのお風呂に人間をつけて放射線を当てるような実験だったということが出来ます。 そこで次に、ビールを飲んでも同じような効果があるのかどうかの検証を行いました。 マウスに放射線を当てて30日後の生存率を調べる実験を行ったところ、ビールを飲ませたマウスは生存率が明らかに高くなりました。ビールと同じ濃度の5.5%エタノールを飲ませたマウスはビールほどには生存率型が高くなかったことからアルコールだけの効果で放射線保護作用が出ているのではないことがわかりました。また、ノンアルコールビールでは効果がありませんでした。このことから、アルコールとその他の保護成分が共存していることによって十分な効果が出ていることがわかります。 では最後の実験として人間でもマウスと同じような稿があるのかどうかを確かめるために、ビールを飲む前と飲んだ後のヒトの血液に放射線を当てる試験を行ったところ、ビールを飲んだ後の血液の方が放射線による異常の発生頻度が低くなり、人間においてもマウスと同じような効果があることがわかりました。 ビールに含まれる放射線防護作用を持つ物質は今述べたエタノールとシュウドウリジンの他にも赤ワインで有名になったポリフェノールなど様々な物質が含まれていて、これらの相加相乗的な効果によって放射線防護作用が出ているのだと思われます。 |