インターネット科学情報番組



科学コミュニケーター 中西貴之
アシスタント BJ

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[最近の放送]>>バックナンバー  
Chapter-53 夢でシミュレーションする私たち  
Chapter-52 超高速インターネット衛星 WINDS 
Chapter-51 ビールに放射線防護作用が  
Chapter-50 2004年ノーベル賞 自然科学分野 
Chapter-49 恐竜に関する最新情報  

■マラソンマウス誕生
 脂肪の燃焼に関わっているタンパク質の機能を遺伝子組み換えによって高めることにより、持久力型の筋肉を持ち、通常のマウスの2倍も走り続けることにできるマラソンマウスが誕生したと、アメリカソーク研究所と韓国ソウル国立大のチームが発表しました。遺伝子組み換えと同じ作用を持つ薬の開発も可能だそうです。

■スリムで血糖値の低いマウス誕生
 脂肪組織にある特定の酵素の働きを抑えると、体重が減り、血糖値も抑えられることを大阪大の研究チームが発見しました。糖尿病など生活習慣病の治療に結びつく可能性があるそうです。2004年10月18日付の医学誌「ネイチャー・メディシン」電子版に発表されました。脂肪の量は 3/4 に低下したそうです。また、エサを食べる量はむしろ増えており、食事制限無しに肥満・高血糖の改善ができそうです。

■天の川銀河で球状星団を新たに発見
 銀河はその周辺に球状星団をはべらせていますが、私たちの住む天の川銀河においてはすべての球状星団(約150個)がすべて発見されていると思われていました。
 今回NASAのスピッツァー宇宙赤外線望遠鏡とワイオミング大学の赤外線望遠鏡による観測によってこれまで発見されていなかった球状星団が発見され天文学者たちは驚いているそうです。この球状星団は地球から9000光年離れたところにあり、100〜130億年前に誕生した者と思われています。

■森林浴は本当に効果があります
 森林総合研究所と九州大学の研究チームは森林浴にストレス物質の分泌を抑えたり、血圧を下げたりするなど、体全体をリラックスさせる効果があることを世界で初めて科学的に証明しました。
 学生に千葉県内の森林とJR千葉駅前で一定時間過ごしてもらい、その前後で脳の活動、血圧、ストレスを受けると増加するだ液中のホルモン「コルチゾール」の濃度などを計測しました。その結果、森林で過ごすと脳の活動、血圧、凝る地ぞー留共に低下したということです。

 

Chapter-54 青いバラ
2005年2月05日

今週の放送を聴くダウンロードする次回の放送

 サントリーが開発した青いバラについてはこ箱の番組でも簡単に紹介したことがありますが、「化学と生物」という雑誌の2005年2月号に詳しい記事が掲載されましたので今週はこれを紹介したいと思います。
http://www.suntory.co.jp/news/2004/8826.html

 2004年の6月にサントリーは「青いバラの開発に成功した」と発表しました。それ以前にも青っぽいバラは1945年の初登場以降、何種類ものバラが作られていたのですが、それらの開発手法は古くからの交配による方法で「青」とはいうものの、「青色」と聞いて普通にイメージする色とはかけ離れたものでした。今回サントリーが青いバラの開発に成功した理由はこれまでの交配技術にたよらず遺伝子組み換え技術によって開発を目指した点にありました。

交配による試み → 不十分な結果

遺伝子組み換え(サントリー) → 成功!!

 バラ以外には青い花はいくつかありますが、それらに共通するのは色の成分としてフラボノイドと呼ばれる一群の物質を含んでいることです。フラボノイドはアミノ酸の一種であるフェニルアラニンから合成されます。フラボノイドの中でも花の色に関わっているフラボノイドのことを特にアントシアニンと呼びます。

 アントシアニンも非常にたくさんの種類の化合物の総称ですが、青い色に着目するとその基本骨格となるのはデルフィニジンと呼ばれるものです。デルフィニジン自身が青い色を発色する性質を持っていて、このデルフィニジンに様々な糖やアシル基が結合することによってデルフィニジンのバリエーションが広がり、花ごとの青色の特徴が出ています。

 バラにはこの様々な青色を作り出す基本となるデルフィニジンがありません。しかし、フラボノイドは植物に必須の成分として存在していますので、フラボノイドからデルフィニジンを作り出す仕組みが存在しないため青いバラができないのだろうと考え、調べてみたところ、フラボノイドを水酸化する通称F3'5'H(フラボノイド3',5'水酸化酵素)が欠損していることがわかりました。

フラボノイド

F3'5'H (フラボノイド3',5'水酸化酵素) の触媒
(バラでは欠損)

デルフィニジン
(アントシアニンの中の一つで青い花に含まれる)

バラには F3',5'H がない !!

デルフィニジンができないから青くならない

では、バラの花びらで F3',5'H を機能させよう !!

遺伝子組み換え

青い花を咲かせるにはデルフィニジンを花びらに含む以外に下記の条件のうち一つ以上を満たさなければならない。
 1:アントシアニンの存在する液胞のpHが中性に近い
 2:アントシアニンに芳香族アシル基が複数結合していること
 3:フラボンやフラボノール等の無色のフラボノイドと複合体を形成していること
 4:アルミニウム、鉄などの金属イオンがアントシアニンに配位すること

F3',5'H = シトクロムP450 の仲間

シトクロム P450
 主に肝臓や小腸でお酒や薬の分解の役目を担っている酵素(触媒)。この酵素が弱いとお酒に弱くなったり、薬が効きすぎて副作用を出したりする。

 まず、すでにペチュニアという植物の青い花びらを使ってシトクロムP450の遺伝子に似た遺伝子を選び出し、その中からF3',5'H と同じ働きをしている遺伝子を選抜しました。この遺伝子をバラの花びらで機能させたのですが、バラの色に変化は現れず、その理由は期待していたデルフィニジンが全くできていないからであることがわかりました。
→ 失敗

 そこで、その他の様々な青い花から同様の遺伝子を選び出し、バラで機能することができるかどうかを調べたところ、唯一パンジーのF3'5'Hのみが機能し、青色の元であるデルフィニジンを花びらで大量に作り出しました。ちなみに、この時点では赤色の元であるシアニジンが機能したままでしたので、できたバラは黒っぽい花でした。

 次に、美しい青色を発色できるバラを探しました。約300品種のバラの性質を調べ、その中から青い色を出すために有利であると予想されるバラ40種類以上に先ほど取り出したF3'5'H遺伝子を導入しました。こうして作ったバラは 10,000系統以上になりましたが、その中に色素成分の100%がデルフィニジンである株を見いだすことができました。

 現在このバラは遺伝子組み換え植物に関する法的基準をクリアするための試験を実施中で2007年の販売開始を目指しています。

青いバラ誕生までの流れ

バラの花びらで F3',5'H が欠けていることを発見

ペチュニアの花びらから F3',5'H 遺伝子を取り出す

バラに組み込むんだものの、青色はできなかった

パンジーの F3',5'H がバラでも作用することを発見

より美しい青を発色するバラの選抜

選び出したバラ + パンジーの F3',5'H
→ 美しい青いバラの誕生 !!

 余談ですが、青いバラを作ることはできなかったペチュニアのF3'5'Hですが、これをカーネーションに導入すると見事青いカーネーションが生まれ、「ムーンダスト」という商品名で1997年から市販されています。1本500円前後です。先日のNHKのテレビ番組「科学タイムトンネル」のワトソンとクリックの回でも紹介されていました。