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Chapter-54 青いバラ サントリーが開発した青いバラについてはこ箱の番組でも簡単に紹介したことがありますが、「化学と生物」という雑誌の2005年2月号に詳しい記事が掲載されましたので今週はこれを紹介したいと思います。 2004年の6月にサントリーは「青いバラの開発に成功した」と発表しました。それ以前にも青っぽいバラは1945年の初登場以降、何種類ものバラが作られていたのですが、それらの開発手法は古くからの交配による方法で「青」とはいうものの、「青色」と聞いて普通にイメージする色とはかけ離れたものでした。今回サントリーが青いバラの開発に成功した理由はこれまでの交配技術にたよらず遺伝子組み換え技術によって開発を目指した点にありました。 交配による試み → 不十分な結果 バラ以外には青い花はいくつかありますが、それらに共通するのは色の成分としてフラボノイドと呼ばれる一群の物質を含んでいることです。フラボノイドはアミノ酸の一種であるフェニルアラニンから合成されます。フラボノイドの中でも花の色に関わっているフラボノイドのことを特にアントシアニンと呼びます。 アントシアニンも非常にたくさんの種類の化合物の総称ですが、青い色に着目するとその基本骨格となるのはデルフィニジンと呼ばれるものです。デルフィニジン自身が青い色を発色する性質を持っていて、このデルフィニジンに様々な糖やアシル基が結合することによってデルフィニジンのバリエーションが広がり、花ごとの青色の特徴が出ています。 バラにはこの様々な青色を作り出す基本となるデルフィニジンがありません。しかし、フラボノイドは植物に必須の成分として存在していますので、フラボノイドからデルフィニジンを作り出す仕組みが存在しないため青いバラができないのだろうと考え、調べてみたところ、フラボノイドを水酸化する通称F3'5'H(フラボノイド3',5'水酸化酵素)が欠損していることがわかりました。 フラボノイド バラには F3',5'H がない !! 青い花を咲かせるにはデルフィニジンを花びらに含む以外に下記の条件のうち一つ以上を満たさなければならない。 F3',5'H = シトクロムP450 の仲間 シトクロム P450 まず、すでにペチュニアという植物の青い花びらを使ってシトクロムP450の遺伝子に似た遺伝子を選び出し、その中からF3',5'H
と同じ働きをしている遺伝子を選抜しました。この遺伝子をバラの花びらで機能させたのですが、バラの色に変化は現れず、その理由は期待していたデルフィニジンが全くできていないからであることがわかりました。 そこで、その他の様々な青い花から同様の遺伝子を選び出し、バラで機能することができるかどうかを調べたところ、唯一パンジーのF3'5'Hのみが機能し、青色の元であるデルフィニジンを花びらで大量に作り出しました。ちなみに、この時点では赤色の元であるシアニジンが機能したままでしたので、できたバラは黒っぽい花でした。 次に、美しい青色を発色できるバラを探しました。約300品種のバラの性質を調べ、その中から青い色を出すために有利であると予想されるバラ40種類以上に先ほど取り出したF3'5'H遺伝子を導入しました。こうして作ったバラは 10,000系統以上になりましたが、その中に色素成分の100%がデルフィニジンである株を見いだすことができました。 現在このバラは遺伝子組み換え植物に関する法的基準をクリアするための試験を実施中で2007年の販売開始を目指しています。 青いバラ誕生までの流れ バラの花びらで F3',5'H が欠けていることを発見 余談ですが、青いバラを作ることはできなかったペチュニアのF3'5'Hですが、これをカーネーションに導入すると見事青いカーネーションが生まれ、「ムーンダスト」という商品名で1997年から市販されています。1本500円前後です。先日のNHKのテレビ番組「科学タイムトンネル」のワトソンとクリックの回でも紹介されていました。 |