インターネット科学情報番組
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Chapter-57 犬ががん検診をする時代が来るかも アマーシャム・ホスピタルの研究チームがブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに、犬に患者の尿をかがせることで,膀胱癌を見つけ出すことができる可能性があるという論文を2004年9月に発表し話題となっています。 イヌに病気を診断させるというのはにわかには理解できないことですが、実はこの研究にいたるにはあるバックグラウンドがありました。それは有名な医学雑誌であるランセットにペットの犬が飼い主の癌を見つけたという報告が2回も掲載されたという事実です。 1回目は1989年に発表されました。それはメラノサイトと呼ばれる皮膚や目などに存在するメラニン色素を形成する細胞における腫瘍、つまりメラノーマを発見したというものでした。2回目は2001年のことで、アメリカでは毎年100万人が発症しているというもっともよく見られるガンである基底細胞癌での発見例でした。この二つの例において、手術前にはペットの犬がしつこく患部につきまとっていたにもかかわらず、手術によって腫瘍が除去されるとまったく何の感心も示さなくなったということです。 犬の嗅覚が非常に優れていることは警察犬や麻薬探知犬が活躍しているという事実から容易に予想されることですが、ランセットに掲載されたこの二つの診断例は犬の嗅覚を癌の診断に利用できる可能性を示唆させるものでした。アマーシャム・ホスピタルの研究チームがこの研究に着手したのもランセットの記事を読んだことがきっかけでした。 アマーシャム・ホスピタルの研究チームはまず膀胱癌患者の尿を使って実験を開始しました。 次に、膀胱癌患者からの尿を一人分、健康なボランティアや膀胱ガン以外の病気の患者も含めた尿6人分、合計7検体の中から,癌患者の尿を選ばせるという実験を行いました。6匹のイヌがそれぞれ9回,計54回の診断が行われました。 もし,犬たちに膀胱癌患者の尿を探し当てる能力がなければ、7分の1、つまり14%に近い値となるはずですが、訓練された犬たちの正答率は41%となり、でたらめに答えた場合の3倍近い正答率を出したということです。さらに,液体の尿でトレーニングを受けた4匹の正答率は50%、乾燥させた尿でトレーニングを受けた2匹の正答率22%となり、液体の尿のにおいをかがせることで正答率は5割にまで上昇することもわかりました。 これまでも医療の領域においては病気特有のにおいを診断に利用することは経験的に行われてきましたが、においを定量的に評価する装置が開発されたのはここ数年のことであり、また人間の感覚に頼った場合は信頼性に問題がありましたが、イヌならば実用になるのだろうか、ということが次の問題となります。 ちなみに、今回の実験において健康なボランティアとして参加したある一人の人の尿に6匹すべてのイヌが毎回「伏せ」の姿勢を取りました。ボランティアととして参加するための健康診断では膀胱ガンは全く見つかっていませんでしたが、イヌがあまりに反応するため念のために詳細な検査を行ったところ、腎臓癌が発見されたというおまけも報告されています。 地震国日本では動物が地震を予知できるのではないかという様々な研究がなされていて、犬の地震予知能力の研究をしている研究者もいます。今のところ、犬を使って地震予知ができる段階にまでは達していませんが、例えば阪神大震災において地震前に異常行動をとった犬やネコ、ネズミなどの居場所を地図上にプロットしていくと、被害の多かったところに集中することがわかっています。動物が騒いだり、逃げたりするのはなぜか、その理由については科学的にはまだ十分に解明されていませんが、可能性として、地震前に発生する電磁波や空中のイオンが動物にストレスを与えて異常行動を起こさせるのではないかと思われています。 地震予知の例では地震の前に騒いだ犬と騒がなかった犬の遺伝子を比較して地震予知遺伝子を探そうという試みも行われており、これまでの現象レベルでの検討に遺伝子レベルの解析が加わることによって、動物によって病気の発見や天災の予知といったことが本当に可能になるかもしれません。 |