2010年8月28日
Chapter 304 子どもの言語発達に合わせて親もマザリーズ(母親語)の脳内処理を変化

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 マザリーズは、大人が乳幼児に向かって話しかける際に自然に発してしまう、声高で抑揚のついた独特の話し方のことです。乳幼児は母親や周囲の人間の話し言葉を聞くことにより言語を獲得しますが、言語習得の初期段階に非常に重要な役目を担っているとされています。

 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センターの研究者らは、大人にとってマザリーズはどのような機能を持っているのかに注目しました。この「マザリーズ」を大人が発しているとき、その人の脳の中で行われている言語に関する情報の処理が、人によって違う、具体的にはその人の育児経験の有無や男性か女性か、さらには性格の違いによって変化し、単なる幼い子供を前にした気持ちの高揚ではなく、言葉を伝えようとするより能動的で明確な意図の表れであることを突き止めました。

 マザリーズは日本人の母親に特有のものではなく、ほぼすべての言語圏や文化圏で耳にすることができ、老若男女を問わずマザリーズを使うことが知られています。このことから、マザリーズはヒト共通のメカニズムがあると考えられています。一方で乳幼児もマザリーズを好んで聞くことから、言葉の獲得や情動の発達への影響に注目した研究が続けられています。

 前言語期乳児は言葉を話せないにもかかわらず、母親の言語野が活発な脳活動を示したことから、母親が乳児に何とか言葉を伝えようしていることが分かりました。また、マザリーズを聞いているだけで発話にかかわる脳部位が母親は実際にマザリーズを話していないにもかかわらず、あたかも話しているかのように脳が活動することもわかりました。この言語野や運動野の活動は一過的で、二語文期幼児や小学生児童の母親では見られなくなり、成人向けの話し方と差が無くなることが分かりました。つまり、母親の脳活動は、子どもの成長と共に変化していくことが分かりました。

 面白いことに、同じ時期の乳児をもつ父親では脳活動が見られませんでした。今回参加した母親らは全員専業主婦で、父親とは育児に携わる時間に差があるため、母親と父親の脳活動の違いは、それぞれの育児時間の長さの違いを反映している可能性が考えられました。また、親の経験のない男女でも脳活動は見られませんでした。

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科学コミュニケーター 中西貴之(メール
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 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
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