子供たちに聞かせてあげたいノーベル賞

2011年4月9日
Chapter-335 見えないのに見えている可能性

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 脳梗塞などで脳の後頭葉にある視覚野が損傷を受けた時に、視野狭窄(きょうさく)や視野障害といった症状が現れます。けれど、そのような患者でも「見えていると意識できないのに脳では見えている」という盲視(ブラインドサイト)という現象が知られています。これまでの研究でこの盲視現象は、脳の中の視覚野を経由しない中脳を通る別の神経回路によって、眼で見た情報が無意識にバイパスして脳の中に送りこまれるからであることが分かってきました。今回報告された新たな発見は、中脳は、単なるバイパスになっているばかりでなく、眼で見たモノの場所を無意識に"記憶"しておくことに役立っていることが明らかになったことです。自然科学研究機構生理学研究所によって行われたこの研究は、脳の損傷などの特殊な場合には、本来は記憶の機能を持たないと考えられていた脳の部位も、記憶の機能を代償することができることを示した初めての研究成果です。

 1973年、視覚野に障害を持ったある患者が、その見えないはずの視野にあるモノの位置を当てることができることに医師は気付きました。例えば、スクリーンに光の点を点灯させて位置を当てるように指示すると、患者はそれが見えないにもかかわらず、光の点を正しく指差すことができました。また、棒が縦か横かを当てるテストでもほとんど間違いがなく答えることができました。 このように本人は見えていると意識できていないにもかかわらず、眼球運動など一部の視覚機能は損傷から回復させることができます。この現象を「盲視」と呼びます

 眼の「網膜」で見た情報は、「視床」を経由して、「視覚野」に送られ、ここで初めて「見ている」として意識されます。けれど、脳梗塞などで「視覚野」が障害を受けた場合には、中脳の「上丘」を介して脳の中に無意識に情報が伝わっていくことが分かってきました。

 動物実験において、右視野の視野損傷のあるサルに、画面を見せました。左目は正常であるため、訓練として赤い点を画面の右上、右下、左上、左下のいずれかに表示し、それを覚えさせ、一定の待ち時間(2.4秒以下)の後、反応開始の合図とともに、その方向に眼を向けさせる実験を行いました。すると、損傷のある右視野でも正常な左視野と同様に、赤い点の出た方向に、ほぼ正しく眼を向けることができました。実験中に、中脳(上丘)の神経細胞の活動を記録したところ、損傷側の脳で、待ち時間の間ずっと反応し続けている神経細胞を発見しました。この神経活動により、記憶が行われているものと考えられました。正常なサルではこうした反応は見られません。

 まれに、意識していなくても眼でみた情報を記憶していて、あとから必要に応じてビデオのように脳内で再生できる人がいますが、一般にはこれまで、意識して見たモノでないと記憶はできない、と考えられていました。けれど、今回の研究成果により、無意識に脳の中に入ってきた視覚情報も、普段とは異なる脳の部位(中脳・上丘)で記憶できることが明らかとなりました。

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科学コミュニケーター 中西貴之(メール
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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

 


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