2011年4月23日 大きな箱を仕切って二つの部屋を作ります。仕切りには穴が開いていてラットはここを通って両方の部屋を自由に行き来できます。片方の部屋にはライトをつけて明るくし、もう片方の部屋は光を遮って中が暗くなっています。暗い方の部屋にはラットが入るとラットに電気ショックを与えて嫌がらせをする仕掛けがセットされました。 この箱の中にラットを入れたところ、ラットは本能的に暗い部屋へ行きたがるので、何度か電気ショックを受けました。けれどそのうちに、暗い部屋へ入ると痛い目に遭うことを学習して暗い部屋に行かなくなります。このように学習した状態のラットの海馬のIGF-Uの量を測定したところ、量は増えていました。次に、暗いところへ行くと痛い目に遭うことを覚えたラットの海馬にIGF-Uの作用を妨害する物質を注入して箱に戻したところ、暗い部屋に積極的に向かうようになり、このことから電気ショックの記憶がなくなっていることがわかりました。このことはIGF-Uが一度記憶したことを保持し続ける固定の作用にかかわっていることを示唆しています。 次に、暗い部屋に入ると電気ショックを受けることを覚えたラットの海馬にIGF-Uを少量注入すると、注入しない状態に比べて、より長い時間暗い部屋に近寄らなくなり、そのことをかなりの時間が経っても覚えているらしいことがわかりました。つまり、IGF-Uによって記憶力が強化されたらしいのです。 今回の知見は、アルツハイマー病やその他の認知症など、記憶関連障害の治療につながる可能性があることに合わせ、これまで記憶力を増強する化合物はほとんど発見されていなかったため、多くの研究者が関心を持っていると言うことです。ただし、人間の場合は直接海馬にIGF-Uを注入することは難しいので、今後のラットの研究で、鼻からの注入など、ほかの投与手段でも同様の結果が得られれば、有望な新療法に向けた最初の一歩となるかもしれません。 ◇ ◇ ◇ (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
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