インターネット科学情報番組
このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。 [その他の話題] ■女性に不快な男性体臭の原因は? ■塩分は「これくらい」控えめに [最近の放送]>>バックナンバー
|
Chapter-61 延命薬はできるのか 延命とは寿命を延ばすこと、究極的には不老不死を手に入れることといえます。 秦の始皇帝が紀元前221年に中国全土を統一した後、不老不死の薬を探し求めることに没頭したことは有名で、日本に不老不死の薬があるということを聞き日本へも家来を派遣しています。富士山の富士は死なない山「不死山」というのが名前の由来だといわれています。秦の始皇帝が知った日本にある不老不死の薬はこの富士山にあったと中国に伝わったようです。 さらにおもしろいことにこの富士山にある不老不死の薬はかぐや姫のお話「竹取物語」の伝説とつながります。かぐや姫は月に帰る間際に熱烈なラブコールを送っていた時の帝に不老不死の薬を渡しました。不老不死の薬をもらったもののかぐや姫を失った帝は生きる望みを失い、せっかくの不老不死の薬を燃やしてしまったのでした。ちなみに竹取物語の舞台は駿河の国大綱の里というところで現在の富士市であると言われています。どうやら秦の始皇帝が探し求めた不老不死の薬はかぐや姫が持っていたもののようです。 竹取物語の時代の日本には不老不死の薬があったようですが、残念ながらこれを授けられた帝が燃やしてしまいましたので、現在の地球上には不老不死の薬は見つかっていません。ところが、アメリカの科学雑誌サイエンス2005年1月号に延命薬ができるかも、という論文が掲載されました。 生き物の寿命についてはテロメアと呼ばれる染色体の末端部分の繰り返し配列がいのちの回数券の役割を担っていて、細胞が分裂するたびにこの命の回数券が1枚ずつ減っていき、すべて使い尽くされたときにその細胞は死んでしまうということが1930年代から続く研究によってわかっています。その他遺伝子レベルでは寿命と遺伝子の関係について様々な研究成果が出ていますが、薬のように飲むことによって寿命を延ばす物質はほとんどありませんでした。 今回、ワシントン大学の研究チームが既存の多くの薬の中から寿命を延ばす作用がある薬を探し研究を行いました。抗不整脈、抗炎症、抗ガン、中枢神経系などの治療薬を c.elegens という名前の線虫に与えて線虫が生まれてから死ぬまでの日数をカウントすることによりそれらの薬の延命効果を調べました。 C.elegans は人間と同じ真核生物で、大きさは 1mm 程度。人間と同様に神経、筋肉、消化管、表皮、生殖巣といった組織、器官をもつ上、わずか 14時間で孵化し、寿命が 3日なので短時間でその一生を観察できるという事から生き物のモデルとして研究に都合良く使用されている線虫です。 さて、この C.elegans に様々な薬を与えた結果、抗けいれん薬であるエトスクシミドが C.elegans の寿命を 17%伸ばすことが確認されました。その他の抗けいれん薬にも延命効果のある者が見つかり、また、延命効果のある抗けいれん薬にそっくりの化学構造だけれど薬としての作用のない構造類縁体はは延命効果があることから抗けいれん作用と寿命を延ばすことの間に何かの関係亜画あることが推測されました。 抗けいれん薬を作用させて C.elegans の状態を観察すると線虫の運動機能が亢進され線虫の一生の中で特に活動の高い時期が延長されていることがわかりました。抗てんかん薬は神経細胞の情報伝達に関わるカルシウムチャンネルというタンパク質の機能に作用していることから神経の情報伝達を調節することによって延命効果が得られるのではないかと思われます。 |