インターネット科学情報番組



科学コミュニケーター 中西貴之
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[今週の Openig Talk]


[最近の放送]>>バックナンバー  

Chapter-63 シリーズ人工衛星「JWST」     
Chapter-62 ヒトの脳の進化は特別な出来事だった 
Chapter-61 延命薬はできるのか? 
Chapter-60 天気が悪いと腰が痛い・・・は本当?
 
Chapter-59 宇宙ラーメン  
Chapter-58 最新の宇宙探索成果  
Chapter-57 犬ががん検診をする時代が来るかも  
Chapter-56 ドクターイエローのテクノロジー  
Chapter-55 タイムマシンを作る  
Chapter-54 青いバラ  
Chapter-53 夢でシミュレーションする私たち  
Chapter-52 超高速インターネット衛星 WINDS 
Chapter-51 ビールに放射線防護作用が  

 

 

Chapter-65 炭酸飲料好きも遺伝子が決める 
2005年5月7日

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 私たちは「味」をどのようにして感じるのでしょうか。

 甘さ、辛さといった味の原因となっている物質が舌の表面にある味覚細胞に存在する受容体と呼ばれるタンパク質に結合すると「結合した」という信号が脳に伝わり、それを味覚として感じます。たとえるならば、甘い物質が野球のボールだとすると舌の表面のボールがちょうどはまる様な形のくぼみにボールがはまったときに甘い、と感じます。辛さを感じる物質がバレーボールだとすると、バレーボールは野球のボールのくぼみにはまることは出来ませんので、バレーボールがやってきても甘いと感じることはなく、バレーボールとぴったり一致するくぼみにバレーボールがはまったときに初めて辛いと感じます。

 味を感じさせる物質の中でよく知られているのは、辛さを感じさせる物質、先ほどの例で言うとバレーボールは「カプサイシン」と呼ばれる物質で唐辛子に多く含まれる成分となっています。味の種類には甘い、辛い、酸っぱい、苦いにうまみを加えた5種類があります。

 これらそれぞれの受容体が舌の上にあるわけですが、味の種類によって受容体が集まっている部分に偏りがあります。甘さは舌の先の方、辛いは舌の両側側面の先端よりちょっと奥、酸っぱいは舌の両端のさらに奥で、苦いは舌の奥の方となっています。うまみについてはまだ十分に理解されていませんが、うまみの元となるグルタミン酸の受容体が舌に存在していることをアメリカマイアミ大学の研究チームが発見しています。私たちが感じる味はこれら多くの受容体に様々な物質が様々に結合した信号が統合され、さらに温度や舌触りといった因子が加味された上で味として感じているわけです。

 さて、このそれぞれの味覚の受容体はタンパク質でできていますので、当然その働きは遺伝子によって支配されています。従って、その遺伝子の変化は私たちの味に対する感度に影響を及ぼしています。今回、Monell Chemical Senses Cente rの研究者らが味覚と遺伝子の関係について研究を行いました。

 味覚は子供が食べるものに対する好き嫌いの印象をもつにあたって重要な因子です。幼い子供は自分の好きなものしか食べようとしない傾向があり多くの子供が苦味が好きでないために、野菜をあまり食べようとせず、その結果重要な栄養素が欠乏することもあります。

 TAS2R38 と名付けられた遺伝子は苦味の受容体をコードする遺伝子ですが、研究者らは3種類の異なるこの遺伝子について、その結果生じる食べものの好みなどについて比較研究を行いました。すなわち、143人の子供とその母親を対象にしてTAS2R38 遺伝子を調べ、その遺伝子を AA 型、PP 型、AP 型の3種類に分けました。

AA型・・・2つの苦みに反応しない部位を持つ遺伝子
PP型・・・2つの苦み反応性部位を持つ
AP型・・・その両者を持っています。
(対立遺伝子・allele)

 子供達と母親に苦みに対する感受性を調べるためにpropylthiouracil と呼ばれる物質を3種類の濃さに溶かした水を口に含んでもらい「水のようである」か「苦い」のどちらと感じるかを記録してもらいました。

 その結果、苦みを感じる遺伝子を持つPP型、またはAP型の子供と母親においては、子供の70%、母親の50%がもっとも薄いpropylthiouracil 溶液でも苦味を感じ、子供の方がより感受性が高いこともわかりました。一方P遺伝子を持たないAA型の子供と母親ではもっとも薄い propylthiouracil 溶液で苦味を感じたのは極くわずかな人数でした。

 これらの結果から、同じ遺伝子を持っていても年齢によってその感受性が異なることがわかり、このことは子供の頃は嫌いだった健康によい食べ物を大人になると摂取できる様になるという一般的に見られる傾向と一致していました。

 また、苦みを感じる TAS2R38 遺伝子が子供の甘みに対する嗜好にも影響を与えることがわかっています。苦みに敏感な PP 型または AP 型遺伝子の子供はAA型遺伝子の子供に比べてより濃い砂糖水を好み、より炭酸飲料を好みました。PP型または AP 型遺伝子を持つ子供で牛乳または水を好きという割合は少なく、彼等はより砂糖含量の多いシリアルや飲料を好みました。

 一方で大人における苦み感受性遺伝子と砂糖に対する好みは子供ほど顕著ではなく、TAS2R38 の遺伝子型がどうであっても甘いものに対する好みとは関連がない様に思われました。先ほどの苦い水に対する感受性と合わせて、甘み・苦みに対する好き嫌いは根本では遺伝子で制御されているのだけれど、それは子供の時に特に顕著で、大人になると「ジュースばかり飲んでいるとかっこわるい、太るのはいやだ、健康によいものを我慢して食べなければいけない」といった社会的要因が遺伝子の支配を乗り越えるのだろうと思われます。

 今回の研究を行った研究者らは、遺伝子と子供の嗜好の関係を解明することにより、最近問題になりつつある子供の肥満や糖尿病を予防・治療する方法が見いだせるのではないかと述べています。

今週の話題に興味を持った方はぜひこちらの書籍も読んでみてください

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