インターネット科学情報番組
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Chapter-64 英語文法中枢 これは平成17年2月9日に発行された科学技術振興機構報 第151号に掲載された研究成果です。 機能的磁気共鳴映像法(fMRI)の実験から、英語の熟達度(今回は指標として英語の不規則動詞の過去形に対する正答率を採用した)で脳の「文法中枢」の反応が変わることを初めて直接的に証明しました。 fMRIについて。 脳科学の進歩に伴い、人間の脳の活動を画像として捉える機能イメージングの手法を用いて、心のさまざまな機能の座が、脳のどこにあるかを調べられるようになってきました。しかし、言語などの高次機能の脳における発達メカニズムはまだほとんどわかっていないため、今回、研究者らは第二言語である英語の熟達度に注目して、英語の文法知識がどのようにして定着するのかという謎を脳の機能の観点から解決しようとしたものです。 新たな外国語の習得訓練を短期集中的に行えば、成績の向上に比例して脳の文法中枢の活動も向上することが明らかとなっています。しかし、中学生から大学生に至るまで英語が定着していく過程で、長期的に文法中枢の活動がどのように変化するかについては明らかになっていませんでした。 今回の研究の結論は、大学生を対象として、英語に関連する課題を行っている際の脳活動をfMRIにより測定したところ、英語の「熟達度」が高くなるほど文法中枢の活動が節約されていることが明らかになったというものです。 具体的には海外の滞在経験がなく、中1(12才)のときから英語を学び始めている日本語を母語とする右利きの大学生15名(19才)に対し、言語課題として次のような問題を出しました。すなわち、提示された英語の動詞の同じものを選んだりその過去形を選んだりする課題、また、日本語の動詞を示してその英語訳とさらにその過去形を選ばせる問題です。そして、この課題に取り組んでいる間の脳の活動をfMRIで測定しました。
その結果、英語の組み合わせ課題では左脳(L)の言葉の中枢として知られているブローカ野を含む前頭前野に最も強い活動が観察されました。さらに、ブローカ野の活動が熟達度によってどのように変化するかを調べたところ、統計的に有意な負の相関が見られた。すなわち、熟達度が高くなるほどブローカ野の活動が節約されているということがわかりました。
今回の成果と、英語習得を開始したばかりの中学生の英語の成績の向上に比例して文法中枢の活動が増加することを合わせると、中学生から大学生にかけて英語が定着するに従って、文法中枢の活動が高まり、維持され、節約されるというダイナミックな変化が見られることが示唆され、この研究成果は、語学教育の改善や言語の獲得機構の解明へとつながることが期待されます。 |