2007年8月11日
Chapter-169 サイエンスニュースフラッシュ 2007年7月
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口数が多いのは男か女か
男性と女性、どちらがおしゃべりかと言うことを研究したアメリカ・アリゾナ大学の研究チームの成果が発表されました。その結果、女性は男性よりおしゃべりというのは俗説で、結果は男女差がなかったということです。
17〜29歳の大学生396人の会話を2〜10日間一定時間おきに録音し、1日当たりに発した単語数を計算した結果、平均では女性は1万6215語、男性は1万5669語となり、平均値ではわずかに女性の方が多かったのですが、個人ごとのばらつきがそれ以上に多いため差はないといえるということです。
(Science 6 July 2007 Vol.317)
完全な子供マンモス
ロシアの北極圏を流れるユリベイ川付近の永久凍土地帯で約1万年前に死んだと思われる凍結マンモスがほぼ無傷の状態で見つかりました。このマンモスは体長約130センチ、体重約50キロの生後1年の雌でした。
マンモスは現在の象の親戚のような生き物ですが直接の祖先ではないことがわかっています。500万年前から700万年頃にインド象とマンモスの共通の祖先から分岐してマンモスとしての進化を始めたと考えられており、絶滅は1万年前から数千年前の間で諸説があり、いずれにしても今回発見されたマンモスは絶滅寸前のもので、(変な表現ですが・・・)これまで得られたマンモスよりも新鮮であるため、より多くのマンモスの生態に関する情報が得られる可能性があります。
(読売新聞 2007年7月7日)
国内最大級の草食恐竜、頭骨の一部を兵庫で確認
国内で竜脚類の頭骨が初めて発見されました。
竜脚類は首が長く、体長は30メートルを超えるものもある草食恐竜です。今回発見されたのは、国内最大級の草食恐竜・ティタノサウルス類の頭部の付け根にあたる頭骨の一部で脊椎と接続している部分です。この恐竜については2007年1月から3月にかけて行われた調査でしっぽの脊椎骨がすでに発見されており、同じ個体の骨です。
発掘されたのは兵庫県丹波市の白亜紀前期の地層で年代は約1億4000万〜1億2000万年前です。いずれの骨も保存状態が良好なため種の特定も可能で、竜脚類の研究のための重要な試料です。
(兵庫県立人と自然の博物館:http://hitohaku.jp/top/kaseki_news.html)
二足歩行のメリット
人間の特徴である二足歩行はエネルギー節約という利点によって進化したことを裏付ける実験結果がアメリカ・ワシントン大学などの共同研究チームによって発表されました。
チンパンジーを使って二足歩行と四足歩行のエネルギー効率を測定しましたが、個体によって二足歩行の方が効率が良かったものと四足歩行の方が効率が良かったものがいました。
チンパンジーでの実験結果は、同一種の動物でも歩行形態によってエネルギーの消費量に違いがあり、それが行動範囲の違いにつながってエサを得るチャンスや繁殖の機会が異なることを示唆しており、ある段階で二足歩行をする個体群と、四足歩行の個体群が別れて、別の種になった可能性が考えられます。
(CNNニュース:2007年7月1日)
深海底熱水噴出口に住む微生物のゲノム解読に成功
海洋研究開発機構は、沖縄本島北西海域の深海底熱水活動域から分離した特殊な環境を好んで生息する極限環境微生物の全ゲノムを解析したと発表しました。
全ゲノム配列の解析の結果、これらの微生物の遺伝子の大きさはヒトゲノムの1000分の1しかないことがわかりました。さらに、酸素や硝酸など複数の物質からエネルギーを得るための複数の呼吸経路を持ち、使い分けているらしいこともわかりました。熱水は鉄、銅、マンガンなどの重金属を高濃度で含んでいるため、これらを解毒するための仕組みをもっていました。また、外部環境の変化を関知するためのセンサー(詳しくは2007年9月発売予定の拙著を参照してください)を複数系統備えていました。
(独立行政法人海洋研究開発機構プレスリリース 2007年7月2日/2007年9月下旬発行予定拙著)
DNA電線
遺伝情報を担うDNAの中を電流が流れることを、大阪大産業科学研究所の研究グループが発見しました。電流は二重らせんの鎖の部分ではなく、二つの鎖の間にまたがっている塩基を伝わって流れていたということです。
今回の研究では、様々な人工的なDNAをガラス基盤上に作成し、一方の端に光増感剤を、もう片方の端に蛍光色素を結合させました。ガラス基板の裏から紫外線を当てると、光増感剤から正電荷が発生し、反対の端まで移動して蛍光色素と反応し、蛍光を消す現象が観測できたということです。DNAの二重らせんの幅は2ナノメートルしかありませんので、超ミクロ半導体などこれまでにない電子デバイスの開発につながるものと期待されます。
(asahi.com 2007年06月28日)
有機化合物のシス・トランスの違いが目で見える
目の網膜内で光により構造変化を起こす「レチナール」という分子があります。レチナール分子は炭素の二重結合(-C=C-)を持ち、分子全体の構造がこの二重結合部分で折れ曲がったシス形とまっすぐに伸びたトランス形と呼ばれる二種類の構造をとることができます。レチナールは光によってシス形からトランス形への構造変化を起こし、その変化がものを見るプロセスの第一ステップだとされています。今回、産業技術総合研究所と科学技術振興機構の共同研究で、レチナールに炭素でできたサッカーボールであるフラーレンを結合させ、さらにそれを炭素でできたホースであるカーボンナノチューブの中に閉じ込めることによって、電子顕微鏡で分子1個のレベルで構造変化を直接観察することに成功しました。
その結果、光の変わりの役目をする電子顕微鏡の電子線によって刻々と構造を変えるレチナール分子の像が見ることに成功しました。
(産総研プレスリリース 2007年7月2日)
肺がん遺伝子を特定
科学技術振興機構(JST)はヒト肺がんの原因となっている新たながん遺伝子を発見したと発表しました。肺がんは欧米・日本でがん死原因の第一位を占め、肺がんによる死亡者数は日本ではでは2005年に約6万2千人、米国においては2006年に16万2千人です。
今回発見されたがん遺伝子は、細胞の骨格となるたんぱく質を作るEML4と名付けられた遺伝子と、細胞内のたんぱく質をリン酸化する酵素の一種を作るALKと名付けられた、異なる2種類の遺伝子のそれぞれ半分が融合する異常によって生じた、新しいがん遺伝子『EML4-ALK』でした。この融合遺伝子は日本人の肺がん症例の約1割に存在することも確認され、この遺伝子を検出することで、肺がんの早期発見が期待できることや、ALKのリン酸化活性の阻害剤が肺がん治療薬となる可能性があることなどが示されました。
(Nature Vol.448 2 August 2007/科学技術振興機構プレスリリース 2007年7月12日)
意外にシンプルな方法でできた次世代ナノテクノロジー材料
透明なアクリル板を水とエタノールを2:8で混合した液体につけて60度で温め溶かした後に冷やすと柔らかなスポンジになることを大阪大学の研究チームが発見しました。このスポンジは約300ナノメートルの粒子が連なったナノ多孔体といわれる状態になっており、ナノテクノロジーの材料として医療や化粧品などへの応用が考えられます。
このスポンジは冷ますときに自由な形にすることができ、弾力も生じていたということですが、こうなる理由はよくわかっていません。現在すでにナノ多孔体はDNA分析などのバイオや医療、化粧品などに使われていますので、この分野に低温で簡単・安全・安価に製造できる新たな素材が誕生したことになります。
(asahi.com 2007年7月9日)
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