2011年5月14日
Chapter-340 ウイスキーの化学

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 ウイスキーは12世紀頃のアイルランドで発明されたとされていて、大麦麦芽を主原料とする蒸留酒です。蒸留酒というのは発酵によってつくったお酒をさらに蒸留して、アルコール含有の割合を増したお酒のことで、ウィスキーの他にはブランデーや焼酎が蒸留酒です。ウイスキーの主成分はその他の様々なお酒と同じエタノールと水ですが、香りと色を生み出す様々な微量成分が発酵や蒸留の過程で生じたり、熟成中に樽から溶け込んだりしてウイスキーとしての特徴を備えることになります。

 ウイスキーづくりは、乾燥麦芽の粉砕から始まります。粉砕した乾燥麦芽に温水を加え、糖化させます。麦芽の殻は糖化しないので、粉砕の程度で、麦汁の濁り具合が変わります。麦芽の粉砕はウイスキーの風味を決める第一歩で、麦汁の濁り具合で、発酵が変わり、濁った麦汁ほど穀物の香りが強くなります。次に、麦汁を木の桶で発酵させ、エタノールに変えます。ウイスキーの発酵では、ウイスキー酵母に加え、ビール用のエール酵母も使います。エール酵母は、エステルをつくるのでフルーテイーな香りが生み出されます。さらに、発酵の終盤では、木桶にいる乳酸菌がエステルや酸などの香りの成分をつくるので、香りの厚みが増します。桶ごとに生息している細菌相に違いがありますので、同じ製造所でも桶ごとにウイスキーに個性が出ます。

 麦汁が発酵するとエタノールを6〜7%含むもろみとなります。モルトウイスキーでは、もろみを「ポットスチル」という銅の釜で2回蒸留し、アルコール度数を高めます。もろみは、エタノールや様々な香気成分の他に、酵母を含んでいます。もろみを長時間加熱すると、これらの成分の熱分解が起こり、様々な微量成分が生じこれもウイスキーの香りと味わいになります。ポットスチルは、巨大な玉ねぎのような形で、先端が細くなっていますが、形状はさまざまで、この微妙な形の違いによってもウイスキーの個性が生まれます。ポットスチルは銅で作りますが、その理由は、もろみの硫黄成分と銅を反応させて、硫黄化合物の不快な風味を除くためです。そのため、ポットスチルを長く使っていくとやがて穴が開きます。

 モルトウイスキーはバッチ式で2回蒸留ですので、1 回目の抽出液がポットに戻され、再び蒸留が行われます。2回目の蒸留では蒸留過程の中間部分だけが集められて製品となりますが、どこの部分を集めるかによってまたウイスキーの風味に違いが生じます。こうしてできた透明な蒸留駅をニューポットと呼び、エタノールを60〜70%含んでいます。ニューポットは木樽に移され、熟成され琥珀色に変わります。熟成期間は、長いものでは20年以上にもなります。もちろん、この時に用いる樽ごとに異なる香りや風味のウイスキーとなります。熟成中、エラグ酸などたくさんの種類の樽の成分がウイスキーに溶け、さらに反応して着色物質や香気成分になります。これらの成分が溶け出すのを待つために長い熟成期間が必要となります。、また、熟成中のウイスキーは毎年2〜3%減っていきます。これを「天使の分け前」といい、樽の中身が減ることが、熟成の進んでいる証となります。

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 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
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