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Chapter-28 2004年3月7日の読売新聞に「クォーク凝縮確認」という記事が掲載されました。これは日本の研究チームがアメリカの「フィジカル・レビュー・レターズ」という学術雑誌に投稿した論文が元になっている記事なのですが、質量はどうして生じているのかというこれまで解決できていたなかった物理の問題の解明に大きな一歩を記す研究成果です。 質量というのは物体の運動の変化しにくさを表す物理量で、質量の大きな物ほど動かしにくく、止めにくいと定義されます。この質量というものは宇宙を生み出したビッグバンの十万分の一秒後に生まれたと考えられています。 私たちの身体や身の回りのすべてのものは何らかの物質が集まって構成されていますが、この物質は陽子や中性子という微細な粒子から成り立っています。さらにこの陽子や中性子は三個のクオークからできています。ところが、このクオーク3個分の質量を足しても陽子や中性子の質量の2%にしかならず、98%分の質量が不足していることが問題となっていました。 クオークというのは物質の基本粒子で、「アップ」「ダウン」「チャーム」「ストレンジ」「トップ」「ボトム」の6種類ありますが、前述の通り、このクオークには陽子や中性子の重さを説明できるほどの重さがありません。では、クオークが集まっただけのはずの物質が何故重さを持つようになるのか、それが大きな謎でした。このことを説明するために次のような仮説が40年前に立てられました。すなわち、質量は真空に潜む未発見の「ヒッグス粒子」の作用で生まれ、クォークが集まってできた陽子や中性子は「クォーク凝縮」のため大きな質量を持つようになった、という仮説です。この仮説を証明することが多くの研究者の課題でしたが、ついに日本の研究者がこの課題を解く手がかりをつかんだということになります。 さて、クオークはクォークの間に働く「強い相互作用」という力のため単独では存在できず、3個集まった陽子や中性子、2個集まった中間子の形を取ります。クォークと、電気的性質が反対の「反クォーク」が対となって周囲から見えなくなるクォーク凝縮が起きると、その空間を動く「見えるクォーク」は見えないクオークの取り囲まれて抵抗を受けて動きにくくなり、上に記載した質量の定義に従えば、すなわちそれは質量が重くなったということと等しくなります。 この凝縮は真空中で最も強くなり、高い温度、高い密度になるほど弱まります。ですから、真空中と高温高密度の二種類の環境を用意して、その中にクオークを移動させ、その動きの違いを観察することによって先ほどの仮説を検証することが出来ます。つまり、仮説が正しければ高温高密度の環境ではクオークにまとわりつく見えないクオークが少なくなるはずですので、クオークはより活発に運動するはずです。 日本の研究チームはドイツの重イオン研究所の加速器を使って実験を行いました。クォーク二個ででき、スズの原子核を回る現象が知られていたパイ中間子を、スズの原子核内に入れ、その動きを詳しく分析して凝縮の強さを間接的に測定しました。その結果、密度の高い原子核中心部は真空中に比べ凝縮が約35%弱まっていることを突き止めました。 この値は理論の予想値と非常によく一致しており、クォーク凝縮の存在が明確に裏付けられた、つまり、仮説は証明されたということです。 |