2011年5月28日 鳥の祖先として有名な始祖鳥の化石が発見されたのは1861年のドイツでのことでした。始祖鳥は1億5000万年前に生息していたカラス程度の大きさで、現在の鳥の特徴を備えつつ、歯、かぎ爪、しっぽがあるなどは虫類の特徴も残していました。ただし、始祖鳥は中間とは言っても非常に現在の鳥に近かったので、もっと中間的な、つまりは虫類にそっくりで鳥の特徴を持つ生物の化石を探し出そうと多くの研究者が発掘に取り組みましたが、その後150年にもわたって何の発見も無い時代が続きました。 始祖鳥の化石を見る限り、は虫類が進化して鳥になったらしい。だったら、その進化の過程で何が起きたのだろうか、と想像する古生物学者も多くいました。彼らによる多くの説の一つには虫類の鱗が翼に進化したという説がありました。鳥の祖先が持っていた鱗が世代を重ねるごとに次第に伸びて羽のような構造に裂けていった、というものです。何故そのようなことが起きたのか、想像するに、樹上生活をしていたは虫類の祖先が木から木へと飛び移る際に羽があればより有利に移動することが可能となります。そのため、長い時間を掛けて滑空するための構造として羽の元になるような物が進化し、やがて自立飛行できるようになったのでは無いか・・・という説です。この説のポイントは飛ぶための道具として、つまり、は虫類の飛ぼうとする行動があってそれを追いかけるように羽が進化した、翼と飛行は一心同体だという考え方である点です。 一方で1996年、中国の研究チームが1億2500万年前の原始的な羽毛を持った獣脚類の化石を発見したのです。この獣脚類はシノサウロプテリクスでもちろん獣脚類特有の地上を走り回るのに有利な強い後ろ足を持っている恐竜でした。かつての説では、木々を飛び移っていた恐竜が徐々に翼のような構造を進化させたことになっていましたが、シノサウロプテリクスの発見によって、地上を走り回る恐竜に羽毛が発生しており、羽と飛行が別々の起源を持っていることを示しています。 2009年、鳥と恐竜の関係をさらに明らかにする化石が発見されました。中国の研究チームが鳥盤類と呼ばれる恐竜の仲間で羽毛の生えたティアニュロングという恐竜の化石を発見しました。鳥盤類は獣脚類とは進化的に大きく離れた種類の恐竜です。にもかかわらず両方の種類に羽毛の生えた仲間がいると言うことは、獣脚類と鳥盤類が別れるよりもさらに前の段階で鱗から羽毛への進化が起きていたことを示唆しています。つまり、羽毛を持たない竜客類や鳥盤類は退化によって羽毛を失った可能性があるというのです。 ここまでは鳥の翼は飛ぶためにあるという前提で考えてきましたが、別の考え方として、鳥の翼は見せるために生まれ、それを使って飛べるようになったのは偶然のサイン物である説がとなえられました。現生の鳥の中に翼をディスプレイに使う鳥は数多く知られていますが、獣脚類の羽の化石から色素を含む粒子を取り出すことに2009年に成功し、獣脚類もカラフルな羽毛を持っていることが確認されました。 1億5000万年前にアンキオルニスという恐竜がいました。大きさはニワトリくらい。前足に羽が生えていて、それは白黒の模様になっていました。頭には赤いとさかがあり、翼は現在の鳥と同様の構造でしたが、羽は左右対称で進化の途中の段階のようです。外観でニワトリと異なるのはアンキオルニスは前足はもちろん、後ろ足も、指の先まで羽に覆われていました。このような大げさな羽の生え方は、その羽がいまだ飛行に向いていない形であるのとあわせて考えると、空を飛ぶのに有利と言うよりはむしろ邪魔で、羽がディスプレイとして使われていたと考える方が自然です。ただし、繰り返しになりますが、翼の構造は現在の鳥とほとんど同じにまで進化していましたので、空を飛ぶことができるよりも先にそれに必要な体の構造の進化が行われていたことになります。このように実際に行動するよりも先にそれに必要な構造が生み出されることを「前適応」と呼びます。 ◇ ◇ ◇ (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
|
Science-Podcast.jp
制作
このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。
|