ライブ & MP3orREALオンデマンド & ポッドキャスト
このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■「最新科学おもしろ雑学帖」が愛媛県の新居浜工業高等専門学校で読書感想文コンクールの課題図書に選ばれました
(2006年9月) [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-131 科学技術振興機構の研究成果です。 神経細胞のネットワークは無数の神経細胞がつながって回路を構成しており、神経細胞同士が接続する部分を神経シナプスと呼びます。シナプスで情報が伝達されている仕組みは記憶や学習のメカニズムと密接に関係していると考えられ、また、この情報伝達に異常が生じることがアルツハイマー病を代表とする脳神経疾患が発症する原因の一つなのではないかと考えられます。 研究者らはシナプスに大量に存在するPSD-95と呼ばれるタンパク質に着目しました。PSD-95はシナプスでの情報伝達に重要な役割を担っていることが考えられましたので、シナプスの情報伝達を制御している何かはこのPSD-95と相互作用をする能力を持っているはずだと考えました。そこで、ラット脳のシナプスからPSD-95と相互作用しているタンパク質取り出し、それを脳の記憶や学習を司る場所である海馬組織に添加したところ、シナプスの情報伝達が促進されることが確認されました。 今回の研究成果から期待できることは今回新たに発見されたシナプスの機能を制御するタンパク質がアルツハイマーなどの疾患の治療薬を研究するヒントにつながるのではないかということです。また、これらのシナプス制御タンパク質の遺伝子がてんかん・けいれんと関わっていることがわかったことから、てんかん治療薬の評価をする上で必要なモデル動物を作成することが可能であるかもしれません。 オーラルケアに有効な新しい物質の発見 花王の調査によるとネバツキ感、口臭、舌の汚れなど、口の中の不快感を感じているは約7割にのぼります。また、10年前の口腔衛生習慣と比較して、歯磨き回数は2.2回/日から2.5回/日、夜の歯磨き時間は3.3分から4.3分/回と増加しており生活者の口腔衛生意識は高まっているようです。 口中の不快感と口内環境との関連性を調べた結果、ネバツキ成分や口臭成分は年を取るにつれて増加し、その原因は唾液分泌量の減少であることが考えられました。 唾液には、消化作用、むし歯を防ぐ作用、細菌を除去する作用があり、口内環境を清浄で健康に整える働きをしています。従って、唾液の浄化能力が低下すると、口の中で細菌が繁殖し、バイオフィルムと呼ばれる細菌の集合体が形成され、むし歯や歯周病、口臭の原因となります。 唾液中のどのような成分が浄化や細菌に対する作用を持っているのかを調べた結果、唾液中のある種のタンパク質が歯の表面に細菌が付着するのを抑制したり、細菌の集合体を分散させやすくしたりする作用を持っていることを見出しました。 そこで、このタンパク質と同様の作用を持っている物質を探したところ、エリスリトールと呼ばれる低分子化合物に同様の作用があることが発見されました。これは果実やキノコのほか、ワイン・清酒・醤油・味噌などの発酵食品に含まれている天然の糖質です。カロリーがゼロで、冷涼感があり、口の中で発見されたタンパク質よりも扱いやすいので、今後この物質を利用したオーラルケア商品の登場を期待することができます。ただし、エリスリトールがバイオフィルムにどのように作用しているかはまだ解明されていません。 葉緑体分裂のメカニズム 立教大学理学部生命理学科 黒岩常祥教授グループが葉緑体分裂の分子メカニズムを解明したと発表しました。 葉緑体は約20億年前にシアノバクテリア(藍藻)が真核細胞に共生し、葉緑体になったとされています。それ故に葉緑体は独自のDNAと独自の分裂装置を持ち、分裂によって増殖します。この分裂装置は藻類から陸上植物に至まで全ての植物に普遍的に存在しており、更に驚くことに、われわれヒトの細胞1つあたりに3000個も存在するミトコンドリアも、類似の分裂装置を使って分裂増殖していることが分かりました。 今回、研究者らは、シゾンとよばれる原始的な植物を使ってPDFマシーンと名付けた葉緑体分裂装置を細胞から単離することに世界で初めて成功し、全ゲノム情報を解読してその機能を明らかにしました。 今回の葉緑体分裂の分子メカニズムの発見を基盤に、植物誕生のしくみが解明される事が期待されます。また、分裂マシーンの機能を抑制することによって、マラリア病原虫の撲滅や赤潮の防除など医療や環境修復にも大いに役立つと思われます。 ナノカーボンの安全性の結論が出ました。 東京大学大学院の研究チームの研究成果です。 水に溶けるナノカーボンをつくり出し、安全性評価を行った結果、金属をまったく含まないナノカーボンには、生体への急激な悪影響が無いことが世界で初めて示されました。 カーボンナノチューブをはじめとするナノカーボンは、次世代の材料として期待される一方で、環境や生体への悪影響が懸念されていました。しかし、これまでナノカーボンが毒であるとする結果から無毒であるとする結果まで、さまざまな報告があり、はっきりとした結論はでていませんでした。 今回の研究ではカーボンナノチューブが、マリモのような形に百〜数百ナノメートルの大きさに絡まったカーボンナノホーンを使用し、これを水に溶けるような性質を持たせ、動物細胞への影響を調べました。その結果、毒性は道路舗装剤などに利用される石英微粒子の10分の1程度しかありませんでした。 星の最後をまだ完全には理解していないようです。 東京大学の研究チームがこれまで知られていなかった種類の星の最後を観測しました。 ガンマ線バーストとは、宇宙から大量のガンマ線が突然降り注ぐ現象ですが、最近の観測的・理論的研究により、星の最期である超新星爆発がガンマ線バーストの正体であることが明確になってきました。 2006年2月18日に発生したガンマ線バーストを起こした星は太陽の20倍程度の大きさしかなく、中性子星を中心に残すような軽い星であることを導きだしました。これまで一般的にガンマ線バーストに付随するような超新星はどれも太陽の30倍以上の質量の重い星で、中心にはブラックホールが残されると考えられていました。今回の結果は中性子星を残すような軽い星も、ガンマ線バーストのような大爆発でその一生を終える場合があることを示した初めての例となりました。 ミトコンドリアの個人差が寿命の個人差に関係か? 独立行政法人理化学研究所の研究チームがミトコンドリアDNAの個人差が長寿の要因である可能性があると発表しました ミトコンドリアは、独自のDNAを持っていますが、このミトコンドリアDNAに含まれるカルシウムイオン濃度を調整する遺伝子の個人差を調べたところ、カルシウムイオン濃度の変化に関与している遺伝子に2つのタイプがあることを突き止められました。それらはG(グアニン)型とA(アデニン)型と呼ばれる2つのタイプでした。 このことはG型の人の方がより生き残りやすいことを示しています。 日本は、世界でも最も平均寿命の長い国です。しかし、生化学的な観点からはその原因はまだわかっていません。今回の結果から推測すると、ミトコンドリアDNAが関わっている可能性も考えられます。今回変異が見つかったカルシウムイオン濃度の調整に関わるミトコンドリアDNAのある特定の部位と、アルツハイマー病、パーキンソン病、躁うつ病など神経疾患や糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞など、さまざまな生活習慣病の危険を高める因子の関係も報告されており、ミトコンドリアDNAの変異の種類によってミトコンドリアの機能が変化し、さまざまな病気になりやすい人となりにくい人に分かれることが予想され、なりにくい遺伝子を持つ人が日本人には多く、そのことが長寿の原因である可能性も考えられます。
[他局の科学番組放送予定] |