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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■翔泳社”ポッドキャスティング入門”でオススメ番組として紹介されました。 [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-108 独立行政法人理化学研究所が躁鬱病のモデル動物を初めて開発したと2006年4月18日付のプレスリリースで発表しました。 躁うつ病は双極性障害、あるいは最近は気分障害とも言いますが、精神が高まっている状態と抑制された状態が、単独あるいは交互に周期的に現れる病気です。もともとは統合失調症と同列に扱われる精神疾患とされていましたが、近年ではニューロンレベルの形態変化などの著しい異常を来す統合失調症やアルツハイマー病などとは根本的に異なる、感情や気分に障害の起きる、それ独自でカテゴライズされるべき疾患だと考えられています。けれど重症となると統合失調症同様の綿密な検査と治療が必要となり、また、再発を繰り返す傾向があるため、予防薬の開発が望まれていると共に、長期の治療を必要とする病気です。また気分障害は躁鬱病とうつ病の二つをまとめた名称で、うつ病はうつ状態のみを特徴とする病気です。これはおよそ15%の人が一生に一度はかかると言われています。2つの病気のうつ状態の症状に大きな違いはありませんが、異なる疾患と考えられています。 躁うつ病の発症の主な原因は、遺伝的な体質のためにセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質のやり取りが不安定になるためだと考えられていますが、はっきりとしたメカニズムはわかっていません。また、気分安定薬と呼ばれる予防薬があるものの、未だなぜこれらの薬が効果があるのかはわかっておらず、副作用があり、効果も十分でないため、発症メカニズムに基づいた新薬の開発が望まれています。 ミトコンドリアは細胞の中にある小器官で、エネルギーの産生などを担っていますが、躁うつ病の患者ではミトコンドリアの機能に障害が見られます。また、ミトコンドリアの機能が低下することによって、主に心臓、骨格筋、脳などに異常を生じ、疲れやすく長い距離を歩けない、意識を失って手足が麻痺するなど、さまざまな症状を現す疾患であるミトコンドリア病には躁うつ病を伴うことがあることも知られています。このことから研究チームはミトコンドリアDNAの遺伝子を操作し、脳にミトコンドリア機能障害を誘発する遺伝子組み換えマウスを作製しました。 このマウスの行動を詳細に解析した結果、いくつかの異常行動を示すことが明らかになりました。例えば、マウスは夜行性の動物ですが、このモデルマウスは、明るくなってもしばらく動き続け、暗くなる前に動き始めるという行動異常を示しました。これは躁うつ病患者に見られる不眠の症状とよく似ています。また、普通のマウスでは見られない、性周期に伴った顕著な行動量の変化も見られました。これは躁うつ病患者に見られる“躁”状態および“うつ”状態といった気分の波の変化によく似ています。これらの行動異常は気分安定薬の投与により改善し、また躁うつ病患者に投薬すると症状が悪化する三環系抗うつ薬によってより顕著になりました。 これらの研究成果は、ミトコンドリア機能障害と躁うつ病が関連していることを強く示唆するものです。また、このマウスは躁うつ病のモデル動物となる可能性があり、躁うつ病の原因究明につながるばかりではなく、躁うつ病の新薬開発に寄与することも期待されます。 「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ [軌道エレベーター] 軌道エレベーターは地球に比較的近い宇宙空間と地球の間を行き来する交通機関として最も有力視されているものです。概念としては地表から宇宙空間にまで伸びていく非常に長いエレベーターでワイヤー状の軌道にリニアモーターのゴンドラを付け、これに貨物や人間が乗って宇宙空間に移動します。スペースシャトルで荷物を宇宙空間に持ち上げるには大きな推進力を持ったロケットエンジンと巨大な燃料タンクが必要です。重い荷物をロケットで持ち上げるためには強力なエンジンが必要で、そのエンジンを動かすためには大量の燃料が必要です。その燃料をロケットに搭載するとその燃料を持ち上げるためにさらに巨大なロケットと燃料が必要になるため、スペースシャトルに搭載される燃料の9割程度は燃料を打ち上げるために使用されてしまいます。ところが、軌道エレベーターは軌道を通じて電源を供給することが可能であり、軌道をたどって上昇しますので大気圏を勢いよく突破する必要もないため非常にエネルギー効率が良くなります。おそらくは安全性もスペースシャトルよりも高く、何度も利用可能ですのでコストの点でも優れています。このように非常に理想的な交通機関である軌道エレベーターですが、ほぼ現在の科学技術で実現が可能であると思われています。 その理由は軌道エレベーターが静止衛星の延長上にある建造物だからです。気象衛星ひまわりなどで知られている静止衛星は地上3万6000キロメートルの軌道を地球の自転と同じ周期で地球の周りを回っています。したがって、地表から見るとそれはいつも空のある一点に静止しているように見えます。そこで、軌道エレベーターの建設拠点であり将来は駅として利用する静止衛星を打ち上げます。この衛星から地球に向けてエレベーターの軌道となるワイヤーを延ばします。ワイヤーは地球の引力に引っぱられますので、何もしなくてもまっすぐに地球に伸びていきます。ただし、このままでは衛星事地球に引っぱられて衛星の軌道が狂ってしまいますので、バランスをとるために、地球と反対側にもバランスがとれるような長さのワイヤーを延ばします。こちらのワイヤーは衛星が地球の周りを回る遠心力で外側に引っぱられますので、これも何もしなくてもまっすぐに形が保たれます。 このようにして3万6000キロメートルのワイヤーを延ばせば、やがてそのワイヤーの地球側の端っこは地表に近づいてきます。ただし、安全のためにワイヤーを地表に完全に固定することはせず、地球駅のプラットホーム付近にぶら下げておきます。あとはこのワイヤーにゴンドラを取り付ければ軌道エレベーターの出来上がりです。 いきなり人が乗れるほど大きなゴンドラを造るのは難しいので、最初は軌道エレベーターの材料や工具を静止軌道に持ち上げられる程度の小さなモノを作り、徐々に大きくしていく方法が現実的でしょう。 では、なぜNASAもJAXAも軌道エレベーターを建設しないのかと言えば、軌道エレベーターに使えるワイヤーがまだ見つかっていないからです。大阪大学の研究者らの計算によると、静止衛星と軌道ワイヤーの接続部分にかかる力は1ミリメートル四方に39トンとのことです。私たちの技術で製造可能なワイヤーの中にこれほどの引っぱりに耐えられる材料はありません。最も有力視されているのカーボンナノチューブで、1平方ミリメートルあたり5トン程度の引っぱりに耐えられると思われますので、衛星付近の最も力のかかる部分のみカーボンナノチューブを束ねて使用するなどの工夫でなんとかなりそうです。ただし、カーボンナノチューブを3万6000キロメートルもの長さに成長させる製造法はまだ見つかっていません。 ここまでの軌道エレベーターは主に、静止軌道周辺に物資や人間を運んで、無重力空間での新素材などの研究製造や宇宙旅行などに利用できそうですが、軌道エレベーターを使って太陽系探査や、太陽系外への探査機の送り出しを計画している研究者もいます。 軌道エレベーターの中心静止衛星が常に地球に同じ側を向けているとこれまで述べたような誓詞型の軌道エレベーターができますが、この中心静止衛星を自転させるとどうなるでしょうか。地球と静止衛星が歯車のようにぴったりと一致した回転速度に制御されていれば、地表付近ではワイヤーは東西南北方向には静止しているように見えます。しかし、このワイヤーは地球の自転速度と同じ高速で回転していますので、宇宙空間から見るとワイヤーの先端にぶら下がった惑星外探査機はものすごい勢いで宇宙空間に向かって上昇することになります。そこで、探査機を狙った角度でワイヤーから切り離すと、燃料を全く使わずに、大気圏脱出速度を得て宇宙の彼方に飛んでいくことになります。 NASAは現在、「非常に丈夫なワイヤー」を一般から公募しています。使い道は公表されていませんが、NASAは本気で軌道エレベーターを作ろうとしているのではないか、とも考えられています。 [エンディング・他局の科学番組放送予定] |