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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■翔泳社”ポッドキャスティング入門”でオススメ番組として紹介されました。 [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-97
ネイチャーの1月19日号に脳の中で神経細胞ネットワークの拡張に関わっている分子が見つかりました。この分子はマイクロRNAと呼ばれます。RNAはたんぱく質の鋳型として機能していますが、マイクロRNAはRNAの断片のように小さな分子でたんぱく質の鋳型になる機能はありません。これまで知られているマイクロRNAの機能は担当するRNAからたんぱく質が作られる過程を制御して植物や動物の生存に重要な酵素活性などの調節をすることでした。今回発見された新しい機能は脳の中で神経細胞の樹状突起の成長をコントロールすることです。miR-134と名付けられたマイクロRNAは脳の中にのみ存在することが知られていますが、ラットにおける研究で脳の中でも特に記憶を司る海馬の神経細胞のネットワークの配線に相当する樹状突起に集中して存在し、樹状突起が伸びることに対してブレーキをかけていることが分かりました。神経細胞がある特定の刺激を外部から受けるとmiR-134による樹状突起新潮のブレーキが解除され、海馬に神経細胞同士の新しい接続部分が生まれました。脳の中ではダイナミックに神経細胞のネットワークが組み替えられていますが、miR-134のようなマイクロRNAが役割分担をして神経ネットワークの構築に関わっているものと思われます。
2月16日に東京で開催された感覚器障害研究成果発表会において大阪大学大学院医学系研究科の田野教授らの研究チームが「網膜刺激型電極による人工視覚システムの開発」と題して発表を行いました。この研究は、視力を失った患者の眼球に人工網膜チップを埋め込み、電流を流したところ患者が光を認識することができたという国内最初のものです。この患者は網膜にあって暗いところでのものの見え方や視野の広さに関わる細胞に異常が発生し、暗いところで目が見えなくなったり、長い筒越しに外を見ているように視野が狭くなったりしながら視力が奪われていく原因不明の病気である網膜色素変性症の患者です。手術によって眼球の裏の強膜と呼ばれる厚さ約1ミリの細胞の膜に縦横3個ずつ計9個の3ミリ角の人工網膜チップを埋め込みました。そして、チップのそれぞれの電極に外部から電気を流すと、網膜が光を感じたときと同じような電気信号が視神経に伝達され、「光」として感じたということです。また、電気信号を流すチップを意図的に選択したところ、それに対応するように光の形状も変化したと言うことで、眼鏡に組み込んだような超小型カメラで見た周辺の景色を電気信号に変換してチップに送り込む方法で人工的に失われた視力を回復させることができることを示唆しています。2010年頃の実用化を目指していますが、字を見分けるためには、チップの電極を100個程度に増やす必要があるそうです。 [カーボンナノチューブの商業利用] カーボンナノチューブは当時NEC基礎研究所の飯島澄男研究員によってフラーレンの研究過程でフラーレン製造時に発生するすすの成分として1991年に発見されました。カーボンナノチューブはそれを構成する炭素六員環の配列やチューブの直径によって導体になったり半導体になったりと電気伝導率が変わるので半導体の素材として期待されています。また、チューブの中に様々な分子を取り込むことによる新たな性質が期待されます。このほか燃料電池の電極やアルミニウムの半分の軽さで鋼鉄の二〇倍の強度を持つことから長大橋や軌道エレベーターなどのワイヤーとしての使用も研究されています。また、その独特の構造から非常に微細な領域の温度を測定するカーボンナノ温度計なども作られています。
現時点でカーボンナノチューブを使った製品は商業化されていませんが、発見から15年が経過した現在、JSTニュースによるとこれまでの研究の蓄積が実を結ぶ時期が近づいてきたとのことです。 商業科が遅れている最大の理由のひとつは大量合成が難しい点にあります。カーボンナノチューブは金属微粒子などの触媒から「生える」ように延ばすことによって得るという特徴があります。類似構造としてよく知られているサッカーボール状のフラーレンについてはトルエンを燃焼させる方法によってすでにプラントでの製造が可能になり、キログラム単位で市販されていることと非常に対照的です。 また、フラーレンと言えば、ボール状の一つの構造ですが、ナノチューブはチューブの太さが様々であることにくわえ、チューブの中にさらにチューブが入った多層のナノチューブも存在し、そこに長さの概念が加わりますので、同じ規格のものを大量に製造することが難しく、これがナノチューブの商業化を遅らせている二つめの理由です。 ナノチューブの量産化については日本の研究チームによる精力的な研究の結果、10分で2.5ミリメートルの長さのカーボンナノチューブを大量に得る方法が開発されました。この方法によれば、膨大な本数のカーボンナノチューブが直径150マイクロメートル、つまり髪の毛と同じくらいの太さの束になって肉眼で見えるほど触媒から生えている状態を作り出すことができ、さらに、触媒の工夫で単層、二層、多層の作り分けも自在にできます。 このように大量合成に目処が立ったカーボンナノチューブの使い方としては、電気を通すという特長を生かして、プラスチックの表面にカーボンナノチューブを植えてプラスチックに電導性を持たせた素材の開発や、トランジスタ、コンデンサのような働きをするキャパシターへの利用。チューブの中に分子を入れることができることを利用して水素の貯蔵や、薬物を作用部位に正確に送り届けるドラッグデリバリーシステムへの利用などが考えられます。また、企業における研究では富士通研究所が多層LSIの上下をつなぐ縦配線として使用する方法を研究しています。一報、三菱電機を中心としたチームではナノチューブに電圧をかけて電子を放出させ、その電子で蛍光体を光らせるディスプレイの開発を目指しています。
また、カーボンナノチューブやフラーレンが生活環境に入ってきた際に気になる安全性ですが、ラットを用いた短期の試験においてはすでに安全性にほとんど問題がないことが確認されています。今後は長期の試験における安全性を確認し、身近な広い領域で使われるようになることを目指したいものです。 [エンディング・他局の科学番組放送予定] |