インターネット科学情報番組
このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。 [今週の Openig Talk] ■ [最近の放送]>>バックナンバー [この番組の担当は・・・]
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Chapter-70 刺さないミツバチの完成 蜜やろうを取るためにミツバチを飼育することを「養蜂(ようほう)」といいますが、人間と蜂との関わりは古く、紀元前6000年後のに描かれたスペインの洞窟壁画に蜂の巣に手を突っ込んで蜜を採取する人の絵があるそうです。産業としての養蜂は紀元前2600年頃のエジプトにはじまると言われています。現在のような引き出しを立てに入れたような巣箱が発明され合理的な養蜂がはじまったのは19世紀中頃のことだそうです。 養蜂に利用される蜂は2種類いて、一つは私たちが良く目にする「ミツバチ類」、もうひとつは「ハリナシミツバチ類」です。ハリなしミツバチというのは耳慣れないと思いますが、ミツバチが30種類程度しか養蜂に用いられていないのに対して、ハリなしミツバチは400種以上が生息しており、種数としては私たちにとって身近なミツバチの方が少数派であるといえます。 といいますのも、このハリナシミツバチは熱帯・亜熱帯地域に生息する蜂で北半球の分布北限は台湾中部の阿里山(アーリーシャン)とされていて、日本にはいません。元々日本にいない亜熱帯性の蜂を日本に持ち込んで屋外に放つことは環境への影響など様々な難しい問題があります。実際にこれまで亜熱帯性のハリナシミツバチを導入したことはありますが、いずれも屋外では定着できず人間の管理下での利用が精一杯であるのが現状です。 外来生物であることから導入が難しく、実際に日本の環境に適合できないハリナシミツバチですが、その性質としてはその名の通り針が進化の過程で退化してしまっているので、人間に対する危険性が無く養蜂には理想的な蜂であるといえます。 一方で日本のミツバチにはセイヨウミツバチとトウヨウミツバチの2種類がいます。これらの蜂は蜜やろうを取るばかりでなく、ポリネーターと呼ぶ花粉媒介者としての利用も注目されており、今後養蜂だけでなく農業への適用も期待されていますが、人間を刺す性質があるため利用者に恐怖を与えますし、養蜂業者でない普通の農家がポリネーターとしてミツバチを導入する障壁にもなっています。 9年ほど前にさかのぼりますが、農業・生物系特定産業技術研究機構の研究者らはミツバチの遺伝子を変異させることによって刺さないミツバチを作り出すことに成功しました。その後遺伝子改変に関する研究などが精力的に進められています。今回採用された遺伝子の変異方法はガンマ線を照射することによってランダムな遺伝子の変異をもたらし、針のない変異種を育成することによって目的とするミツバチを得るという方法です。 ガンマ線照射を行うと細胞核のDNAに変異を起こしますが、これはミツバチの針を刺すシステム全体を構築する遺伝子の変異であり刺さないという性質は遺伝することがわかりました。また、変異させるのにちょうど良い放射線のあて方や女王バチを用いた育種の方法なども確立されて刺さないミツバチは産業に利用できる段階にまで来ています。今後この技術が養蜂家や農家に利用されるかどうかはまだはっきりとしていませんが、こういった安全な蜂という選択肢が新たに提供されたことは今後の日本の食料生産に大きなメリットと進歩を与えるものと思われます。 |