インターネット科学情報番組
このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。 [今週の Openig Talk] ■ [最近の放送]>>バックナンバー [この番組の担当は・・・] |
Chapter-75 ホエール・フォールの不思議な生態系 クジラが死んで海底に沈むとその死体は膨大な海の生き物に食料を提供することになります。何組織は鮫や魚類のエサとなりますが、骨格を中心とする残った死体にはやがて、環状動物やカニ・エビ、バクテリアなど膨大な数の生き物から構成される独特の生物相が出来上がり、これを「ホエールフォール」と呼んでいます。数十種類のホエールフォールでしか見られない独特の生物が発見されており、海洋生物学者の新たな研究対象となっているばかりでなく、この特殊な環境で生息する生物の二次代謝産物や酵素を産業に利用する研究も行われています。 地球で最大の生き物であるシロナガスクジラの場合、その体重は一〇〇トン前後にも達します。骨格はかなり大きく、脂質が大量に存在することが膨大な量の生き物を養うことができる理由で、一頭のシロナガスクジラのホエールフォールは一〇〇年ほども持続されると推定されています。 ここでの最も珍しい生物はオセダックス(ラテン語で「骨をむさぼる者」の意)と呼ばれるミミズの仲間の一種です。オセダックスには目も口も胃もありませんが「根」を持っています。この根をクジラの骨の中に伸ばし、脂質を吸収します。そして、オセデックスの体内で共生関係にある油を分解する細菌が脂質をオセデックスが利用できる栄養分に分解しています。ホエールフォールでオセデックスの仲間は五種類見つかっていますが、そのうちの二種類はさらに不思議な母系社会を形成しています。このオセデックスの雌の体長は人差し指程度ありますが、雄は顕微鏡で見なければ見えないほど小さく、しかも雌の輸卵管の中で生息しており、一匹の雌の体内から最高で一一一匹もの雄が見つかったこともあります。 |