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Chapter-41 アメリカの言語学者チョムスキーは人間が他の動物と違って言葉を自由に操れるのはそれを可能にするメカニズムが元々人間の脳に備わっているからだという説を唱え、賛否両論の嵐を巻き起こしました。(注1) この説が正しいのかどうかは長い間解明されていませんでしたが、近年、脳の機能を画像化する技術が開発され、それを使って日本人の研究者によって結論が出されつつあります。 脳の機能を画像化する装置はMRI(Magnetic Resonance Imaging) 磁気共鳴画像と呼ばれるもので、現在世界各国で、脳梗塞や脳腫瘍などの検査に広く使われていますが、脳神経の活動が活発な部分では血流量が増えることからそれを手がかりに脳の活動部位をMRIで映像化することができます。この手法を機能的MRIといいます。 研究者らは右利きの成人16人に文法問題を課し、そのときの脳の活動を映像化して調べたところ、文法を使う言語理解の際に、特異的に活動する部位が見つかりました。それは左脳の前部にある「ブローカ野」と呼ばれている部分にありました。ブローカ野は言葉を発する機能を担っている領域でここが損傷されると相手の話は理解できるのに自分ではうまく話せなくなります。さらに、脳の微小領域を磁気で刺激するTMS(経頭蓋的磁気刺激法)という方法を用いて右利きの成人6人のブローカ野に磁気刺激を加えたところ、文法の判断が特異的に促進されることを見いだしました。 これらの成果をふまえ今回は英語を習い始めた中学生を対象に機能的MRIを用いた実験を行いました。「現在形」を「過去形」に変えるという文法課題を与え、学習前後の脳の活動変化を調べました。その結果、学習の向上に比例して先の文法実験で見いだされた活動部位であるブローカ野と同じ部位に活動の増加が見られました。 また、日本語を母語とする大学生および大学院生に対して、ハングル文字とその発音に関するトレーニングを2日間に渡って行い、このトレーニングを行っているときの脳活動をfMRIによって測定し、2日間の学習途上で脳機能に変化が観察されるかどうかを評価したところ、新しく習得したハングル文字と音声を組み合わせたときに左脳の下側頭回後部が活性化することが確認されました。わずかな時間の学習途上で脳機能がダイナミックに変化することを明らかにしたこの研究成果は非常に画期的で、さらに、言語の感受性期をすでに過ぎたとされている大人において、脳機能の可塑的変化が示されたことは、大脳皮質が成人で完成するのではなく、大人になった後も脳が機能的に変化し続けることを示唆しています。 また、別の研究では日本語の文法に関する問題を解く際に活性化した文法中枢と同じ部位の活性化が英語の文法習得に関しても認められましたので文法中枢は言語に因らず同一ということができます。さらに同じ遺伝子を受け継いだ双生児ではブローカ野の活動変化に高い相関が見られたことから文法に関する教育効果の定着には双生児が共有する要因である遺伝や環境が深く関与することを示しています。 今回の研究成果は次の3つの今後の展開が期待できるものです 注1 参考文献 イヌの全遺伝情報を解明 >> 詳細はこちら
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