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Chapter-85
[免疫に関する新発見] 私たちの体を外来の異物から守る免疫機能の開始と維持のメカニズムに関して大きな発見があり、人間の体のメカニズムの解明とより有効で安全性の高い免疫抑制法の開発につながる可能性があります。 ウイルスや花粉などの異物などのことを免疫の観点から見ると抗原と呼びます。ウイルスや花粉などの異物、すなわち抗原が体内に侵入すると、抗原提示細胞とよばれる細胞が細胞内部に抗原を取り込み、抗原をバラバラに分解して、続いて機能するT細胞と呼ばれる細胞が認識できる断片に変換し、細胞の表面に異物が侵入したことを示す信号として提出します。T細胞とよばれる別の細胞にはこの信号として扱われる抗原の断片を受信する受容体と呼ばれるタンパク質があり、この信号を検知することで異物の侵入を知ります。T細胞は自分自身でその異物を攻撃・破壊することも出来ますし、その他の細胞に異物が侵入したという情報を知らせる役目も担っています。 情報収集機関である抗原提示細胞と実働部隊であるT細胞情報の情報のやりとりは両方の細胞が直接接着することによって行われることがわかっています。この細胞同士が接着した部分のことを免疫シナプスと呼びます。免疫シナプスはT細胞が信号を受け取る部分を中心とした同心円上の構造をしていて、この中心部分が免疫機能を発現する機能を担っているとこれまでは考えられてきました。けれど、実際の免疫機能は異物侵入の1〜2分後には活動を開始し始めるにもかかわらず、免疫シナプスが形成されるには10〜15分を要し、時系列が逆転していることが謎でした。 今回の研究の結論としては、免疫機能の開始を司っているのはこれまで考えられていた免疫シナプスの中心ではなく、抗原提示細胞とT細胞が接着した境界面に泡のようにわき出てくる「ミクロクラスター」とよばれるこれまで発見されていなかった微細な構造が鍵を握っていることがわかりました。また「ミクロクラスター」は免疫機能を維持する役割も併せ持っていることがあわせて発見されました。 アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患やリウマチなどの自己免疫疾患の多くが、T細胞の過剰な活性化に基づくもので、免疫抑制剤はT細胞の活性化を抑制することによって機能しています。したがって、ありとあらゆる免疫が一気に抑制されてしまう問題を抱えていますが、免疫の開始点をピンポイントで抑制する新しい免疫抑制剤が開発できれば、非常に安全性の高い医薬品となる可能性があります。 さて、今回の研究はガラスの上に人工の細胞膜とそこで生じる細胞同士の情報伝達を再現し、それをレーザー顕微鏡で観察するという方法で行われました。この方法は生体分子イメージングと呼ばれる最新の技術です。私たちの細胞は細胞膜とよばれる非常に薄いリン脂質でできた膜でおおわれていて、呼吸やエネルギー生産、情報伝達などの重要な機能はその膜に浮かんだタンパク質によって行われています。ガラス平面上に人工的に作った細胞膜に抗原提示細胞の免疫機能発現に関与するパーツを浮かべます。これでガラス平面は抗原提示細胞をシミュレートしたことになります。ここにT細胞を乗せると体内で起きるのと同じ免疫反応が起きますので、それをレーザー顕微鏡で観察するということです。 ここでレーザー顕微鏡とは光源からのレーザーを、対物レンズを用いて非常に小さな1点に絞り込み、それを観察したい試料上でx-y方向に2次元スキャンし、レーザーの反射や散乱光を光検出器で検出してコンピューター上で映像化する顕微鏡です。 これらの結果は、T細胞による免疫機能の発生はこれまでの説のように細胞接着面の中心で起きているのではなく、接着面全体に分散してわき出ているミクロクラスターで行われていることを示しています。 今回の研究は、免疫機能のスタートと経過をミクロのレベルで実際に観察し、そのメカニズムを解明した画期的な研究と考えられ、医療への応用が期待されます。 |