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Chapter-82
[2005年ノーベル化学賞] 2005年ノーベル化学賞発表 仏石油研究所のイブ・ショーバン名誉研究部長(74) 各受賞者の業績 仏石油研究所のイブ・ショーバン 米マサチューセッツ工科大学のリチャード・シュロック 米カリフォルニア工科大学のロバート・グラッブス 有機化合物の多くは炭素-炭素二重結合を持っています。通常はこの二重結合は安定ですので、二重結合の左右を置き換えるような反応は非常に難しいものです。ところが、ある種の触媒を使用すると、この二重結合が一気に離れて、別の二重結合と片割れと再び二重結合を作る平衡反応が起きることがわかりました。有効な触媒が考え出されるまでは、何段階ものステップを踏んで結合を切り離したり、意図しない反応が起きないように保護をしたりしながら同様の反応を行わなければならなかったものが、ワンステップで反応を進めることが出来るようになり、効率が非常に向上し、無駄な原料を使用する必要や反応を進行させるために加熱する必要などが無くなったので環境負荷の低減にもなりました。 メタセシス反応の概念 [ある種の構造A]=[ある種の構造B] ただし、メタセシス反応は単純な平衡反応なので [ある種の構造A]=[ある種の構造A] のようなものもできます。 この反応機構を解明したのがイブ・ショーバン、反応に必要な触媒を開発したのがロバート・グラッブスとリチャード・シュロックです。 メタセシス反応にもいろいろな種類があって、上で説明したのはクロスメタセシスというものです。1960年代に発見されたメタセシス反応はこれとは異なり、開環メタセシス反応と呼ばれるもので、間に炭素炭素二重結合を含むネックレスのような有機化合物がたくさんあった場合、それらネックレスの二重結合部分が一気に切れて、別のネックレスの二重結合の切断部と結合して、ネックレス同士が長い鎖のようにたくさんつながった構造となる反応で、こういう反応を重合といいます。 また、現在工業的に最も重宝な反応は閉環メタセシスというものです。これは、生物から取り出される複雑な構造の分子や合成ポリマーなどを作る際に使用される反応で、両端に二重結合のある鎖をワンステップで環状にする反応です。かつては希望通りに構造が並んだ炭素の大きなネックレスを作ることは非常に難しいことでしたが、メタセシス触媒の開発によって、あらかじめ直線上に部品を並べておけば一気に希望通りの構造の巨大な炭素のネックレスを作ることが出来るようになりましたので、環状ポリマーというあたらしい高分子を簡単に作ることが出来るようになりました。 いずれの反応も優れた職場があってこそ実現されたものです。 ノーベル化学賞の賞金は3人合わせて1億4600万円です。 |