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科学コミュニケーター 中西貴之
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■ソフトバンクバブリッシングの雑誌「ねっため」2005年11月12月合併号でネットラジオおすすめ番組として紹介されました。

[最近の放送]>>バックナンバー 

Chapter-81 2005年 ノーベル医学生理学賞
Chapter-80 ロボットスーツ HAL
Chapter-79 アスベスト被害はどのようなものか
Chapter-78 FASTECH360 のテクノロジー 
Chapter-77 人類の進化について  
Chapter-76 テザー衛星でスペースデブリを掃除する 
Chapter-75 ホエール・フォールの不思議な生態系 
Chapter-74 アクチビンによる発生分化 
Chapter-73 シリーズ人工衛星「スロッシュサット・フリーボ」 
Chapter-72 太陽系誕生の謎に迫れ・ディープインパクト
Chapter-71 オゾン層の現状
Chapter-70 刺さないミツバチの完成 
Chapter-69 量子テレポーテーション 
Chapter-68 究極の再生治療 他 
Chapter-67 慢性疲労症候群 
Chapter-66 3500年前のミイラ 
Chapter-65 炭酸飲料好きも遺伝子が決める  
Chapter-64 英語文法中枢   
Chapter-63 シリーズ人工衛星「JWST」     
Chapter-62 ヒトの脳の進化は特別な出来事だった 
Chapter-61 延命薬はできるのか? 
Chapter-60 天気が悪いと腰が痛い・・・は本当?
 
Chapter-59 宇宙ラーメン  
Chapter-58 最新の宇宙探索成果  
Chapter-57 犬ががん検診をする時代が来るかも  
Chapter-56 ドクターイエローのテクノロジー  
Chapter-55 タイムマシンを作る  
Chapter-54 青いバラ  
Chapter-53 夢でシミュレーションする私たち  
Chapter-52 超高速インターネット衛星 WINDS 
Chapter-51 ビールに放射線防護作用が  

[この番組の担当は・・・]

ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

Chapter-82
2005年ノーベル化学賞「メタセシス反応」

2005年10月15日

今週の放送を聴くMP3をダウンロードする前回の放送次回の放送

[今週の科学ニュース]

・死なない幼虫が雑誌の付録になるかも
・中国 有人宇宙船打ち上げ成功
・マーズ・エクスプレス観測期間延長

[2005年ノーベル化学賞]

2005年ノーベル化学賞発表
「有機合成におけるメタセシス反応の開発」
 様々な有機化合物を合成する際に非常に有効で現在広く工業的にも利用されている有機合成反応の発見と、それを実用化することを可能にした触媒の研究

仏石油研究所のイブ・ショーバン名誉研究部長(74)
米カリフォルニア工科大学のロバート・グラッブス教授(63)
米マサチューセッツ工科大学のリチャード・シュロック教授(60)

各受賞者の業績

仏石油研究所のイブ・ショーバン
 モリブデンやタングステンを触媒とすることによって、ある種の重合反応が起きることが1964年に発見されましたが、その反応メカニズムについてはわかっていませんでした。イブ・ショーバンの研究チームは1971年 に別の触媒を用いて同様の反応に対する詳細な研究を行い、この反応がメタセシス、つまり元となる有機化合物の位置が交換される反応であることを提唱しました。しかし、初期のメタセシス反応は触媒として良いものが見つかっていなかったため、反応条件は過酷で元の化合物の構造に応じた反応の選択性もなく、工業的有用性は低いものでした。

米マサチューセッツ工科大学のリチャード・シュロック
 リチャード・シュロックの研究チームは1990年により効率よくメタセシス反応を進行させる触媒を開発しました。彼らの考えた触媒は1960年代以来使われてきたモリブテンやタングステンを含む複雑な構造の化合物でしたので、合成が難しく、触媒の安定性も低いという問題点を抱えていたものの、メタセシス反応を工業的に利用する糸口となりました。

米カリフォルニア工科大学のロバート・グラッブス
 ロバート・グラッブスらは1992年、Grubbsらはルテニウムを含み、リチャード・シュロックらの触媒の欠点を改良した新しい触媒を次々に開発し、メタセシス反応の工業的利用への糸口をつかみました。こららの触媒の発見は有機化学における合成ルート開発や合成手順に革命を起こすほどの大発見となりました。

 有機化合物の多くは炭素-炭素二重結合を持っています。通常はこの二重結合は安定ですので、二重結合の左右を置き換えるような反応は非常に難しいものです。ところが、ある種の触媒を使用すると、この二重結合が一気に離れて、別の二重結合と片割れと再び二重結合を作る平衡反応が起きることがわかりました。有効な触媒が考え出されるまでは、何段階ものステップを踏んで結合を切り離したり、意図しない反応が起きないように保護をしたりしながら同様の反応を行わなければならなかったものが、ワンステップで反応を進めることが出来るようになり、効率が非常に向上し、無駄な原料を使用する必要や反応を進行させるために加熱する必要などが無くなったので環境負荷の低減にもなりました。

メタセシス反応の概念

[ある種の構造A]=[ある種の構造B]
[ある種の構造C]=[ある種の構造D]
   触媒↓メタセシス反応
[ある種の構造A]=[ある種の構造C]
[ある種の構造B]=[ある種の構造D]

 ただし、メタセシス反応は単純な平衡反応なので

[ある種の構造A]=[ある種の構造A]

 のようなものもできます。

 この反応機構を解明したのがイブ・ショーバン、反応に必要な触媒を開発したのがロバート・グラッブスとリチャード・シュロックです。

 メタセシス反応にもいろいろな種類があって、上で説明したのはクロスメタセシスというものです。1960年代に発見されたメタセシス反応はこれとは異なり、開環メタセシス反応と呼ばれるもので、間に炭素炭素二重結合を含むネックレスのような有機化合物がたくさんあった場合、それらネックレスの二重結合部分が一気に切れて、別のネックレスの二重結合の切断部と結合して、ネックレス同士が長い鎖のようにたくさんつながった構造となる反応で、こういう反応を重合といいます。

 また、現在工業的に最も重宝な反応は閉環メタセシスというものです。これは、生物から取り出される複雑な構造の分子や合成ポリマーなどを作る際に使用される反応で、両端に二重結合のある鎖をワンステップで環状にする反応です。かつては希望通りに構造が並んだ炭素の大きなネックレスを作ることは非常に難しいことでしたが、メタセシス触媒の開発によって、あらかじめ直線上に部品を並べておけば一気に希望通りの構造の巨大な炭素のネックレスを作ることが出来るようになりましたので、環状ポリマーというあたらしい高分子を簡単に作ることが出来るようになりました。

 いずれの反応も優れた職場があってこそ実現されたものです。
 触媒は反応させたい物質と混合することによって、触媒がない状態ではうまく進行しないような反応をスムーズに進行させる作用を持つ物質で、炭素、酸素、水素、フッ素などの原子を複雑に組み合わせて作りますが、無限に存在する組み合わせの中から、目的とする反応をより速く進行させる構造を見いだすのは非常に困難な研究です。今回のメタセシス反応のしょくばい研究においても膨大な種類の触媒が合成され、ひとつひとつについてその能力を調べるという地道な研究が花開いたもので、メタセシス反応のメカニズムの解明と工業的利用に必須の触媒研究がセットで2005年のノーベル化学賞となりました。

 ノーベル化学賞の賞金は3人合わせて1億4600万円です。

[今週の科学な新製品]

日本初! 生きた乳酸菌が口の中をケアしてくれるガム
カネボウフーズ株式会社「生の乳酸菌で噛む」
>> プレスリリース 

[エンディング・他局の科学情報番組インデックス]

サイエンスゼロ (NHK教育 毎週土曜日 19:00〜)
 10月22日 ZEROからまなべスペシャル 宇宙研究編
 10月29日 お休み

地球ドラマチィック (NHK教育 毎週水曜日 19:00〜)
 10月19日 進化の秘密・第2回 私たちの未来
 10月26日 ヴァスコ・ダ・ガマの冒険

素敵な宇宙船地球号 (テレビ朝日系 毎週日曜日 23:00〜)
 10月23日 旭山を追い越せ 動物園の奇跡
 10月30日 シリーズ ミクロの世界と驚異(1) パンデミックを阻止せよ

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