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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。 Podcast (ポッドキャスト) でも番組を配信しています。iTunes の検索窓に「くりらじ」または「ヴォイニッチの科学書」と入力して最新番組を検索してください。 ■ソフトバンクバブリッシングの雑誌「ねっため」2005年11月12月合併号でネットラジオおすすめ番組として紹介されました。 [最近の放送]>>バックナンバー [この番組の担当は・・・] |
Chapter-81
[2005年ノーベル医学生理学賞とヘリコバクターピロリ] 2005年ノーベル医学生理学賞が西オーストラリア大学のバリー・マーシャル教授とロビン・ウォーレン名誉教授に授与されることが発表されました。対象となった研究は胃潰瘍の原因微生物であるヘリコバクターピロリの発見とその後の研究です。 ヘリコバクターピロリ(通称:ピロリ菌)は人間の胃の粘膜層に住んでいる微生物で、ピロリ菌に感染すると消化性潰瘍や胃ガンを発症するリスク高まることがわかっています。ピロリ菌は発展途上国では一〇歳までに七割が感染し、ほとんどの成人の胃に生息していますが、先進国では消滅の方向に進んでいます。これはピロリ菌が口から口、糞便から口という感染経路によって体内に取り込まれるため、衛生状態が改善され抗生物質が繁用される地域では感染が起きないためです。 実際に潰瘍や胃ガンの発病率はこれら先進国で低下しましたが、逆に酸逆流疾患や食道ガンの発症が激増しはじめました。ピロリ菌はCagAと呼ばれるタンパク質を胃粘膜の細胞の中に注入し、炎症を起こすことによって胃粘膜の酸産生細胞を調節して胃の酸性度を低下させています。この炎症が消化性潰瘍や胃ガンを引き起こします。ところが、ピロリ菌が除菌されると炎症に由来する疾患は抑えられるものの、胃の酸性度が調節されなくなり食道下部が胃内の酸性内容物にさらされることになって食道疾患が発症してしまうのです。 また、同種のピロリ菌においても遺伝子配列は最大六パーセントもの違いがあることがわかりました。ヒトとチンパンジーの違いが一パーセント程度ですので非常に大きな違いであるといえます。この違いによってピロリ菌には胃ガンを起こしやすい菌とそうでない菌があることがわかりました。 このほか、ピロリ菌を除菌したヒトは体重増加が大きくなる、胃で作られる摂食をコントロールするホルモンのバランスが変化するという事実から先進国の肥満とピロリ菌との関わりを指摘する説も注目を集めています。 |