Chapter-92
惑星探査機「はやぶさ」最新情報
スイスLHC加速器でブラックホールを作る
2006年1月14日
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惑星探査機「はやぶさ」最新情報
2003年5月9日 打ち上げ
2005年
9月12日 イトカワ上空20キロメートルに到着
11月12日 探査ロボット「ミネルバ」の投下(失敗)
11月20日 88万人の署名入りのターゲットマーカーを投下成功。ターゲットマーカーを目指して降下した「はやぶさ」は着陸後ゆるやかな2回のバウンドを経て、およそ30分間にわたりイトカワ表面に接触を保って着陸状態を継続(予想外の動作)。地上からの指令で緊急離陸。プロジェクタの発射は行われませんでしたが、小惑星から離陸した最初の宇宙船となりました
11月26日 第2回目の降下。弾丸(プロジェクタイル)が発射されたデータ無し(後日判明)。化学推進エンジンにトラブルが発生上昇速度をとめる軌道制御命令を送信(後日失敗が判明)、その後の姿勢制御中において、化学エンジンの1系統から燃料のリークが発生しました。姿勢や通信系など探査機の主要なシステムの機能低下に陥りました(姿勢喪失
and/or 電力喪失)。
12月1日 毎秒8ビットの伝送速度でデータの取得再開(回線状況が悪く中断が頻発)。
12月2日 化学エンジンの再起動を試み、小さな推力は確認できましたが、本格的な始動にはいたりませんでした。
12月3日 探査機の高利得アンテナ軸(+Z軸)方向と太陽、地球をなす角度が、20〜30度に拡大していることが確認されました。緊急の姿勢制御法として、イオンエンジン運転用のキセノンガスの噴射による姿勢制御法の採用を決め、ただちに運用ソフトウェアの作成を開始しました。
12月4日 ソフトウェアが完成し、実際にキセノンガスの噴射によるスピン速度の変更が試みられ、同機能の動作を確認しました。その後、ただちにこれを用いた姿勢変更を指令し実施しました。
12月5日 太陽、地球と+Z軸のなす角は、10〜20度まで回復し、テレメータ情報を最大毎秒256ビットの速度で、中利得アンテナ経由で受信および取得できる状態にまで復旧しました。
12月6日 「はやぶさ」探査機のイトカワからの距離は、視線方向に約550km、イトカワから地球方向へは時速約5kmで相対的に飛行しています。
12月8日 化学推進機関の復旧待ちの状態にあり、姿勢の安定化をはかるために、周期が6分ほどの緩やかなスピン状態に入れられていました。12月に入って緊急で運用に利用されていたキセノンスラスタによる姿勢制御能力は十分ではなく、加わった外乱トルクは、これをはるかに超えており、姿勢の発散を止めることができませんでした。現在の推定では、探査機が転倒する状態に近いほど大きなコーニング運動(=天文学で言う歳差と同じ倒れる寸前のコマの首振り運動)に入ったものと考えられます。この運動角度がさらに大きくなると探査機が予期せぬ方向に向きを変えて収拾がつかなくなる可能性もありますが「はやぶさ」探査機は、何もしなくても安定した状態を取る方向に動きが収束するように設計されており、現在のコーニング運動は、最終的には
+Z 軸まわりの純スピン運動に収束していきます。
2006年
1月7日前後 イオンエンジン立ち上げのために、各機器を1つずつ再起動し、試験・確認。今後、Z軸リアクションホイールを使用する姿勢制御へ移行。
1月中旬以降 イオンエンジンの運転再開の予定。帰還軌道計画については、現在もなお再設計中で、エンジンの運用効率の緩和などに検討が必要ですが、姿勢制御の回復(化学エンジンの復旧等)に目途をつけ、地球帰還に向けて努力することになっています。
このように、2005年12月9日以降運用ができない状態が続いており、現在、懸命の復旧作業が行われています。長期的には復旧できる可能性は比較的高いものと考えられますが、当初計画されていた2007年6月に地球に帰還させることは難しくなり、飛行を3年間延長して、2010年6月に帰還させる計画へと変更することとしたそうです。
「はやぶさ」は一部外国から購入した機器も採用しているものの、日本の技術で開発した世界最先端の地球帰還形惑星探査機で、アポロ宇宙船以外では世界ではじめて惑星への着陸、離陸に成功しました。現在の状態は決して失敗ではなく、将来有人飛行船が宇宙空間で故障し、地球への帰還が危ぶまれる事態が発生した際に備えた訓練に世界に先駆けて日本が挑戦しているのだと思っています。この経験によって日本の宇宙開発技術は確実に向上します。
ぜひ、2010年、はやぶさが地球へ戻ってくる日を楽しみに待ちましょう。
スイスLHC加速器でブラックホールを作る
ヒッグス粒子などの未知の粒子の探索をめざして、スイスのジュネーブ郊外にLHC・大型ハドロン衝突型加速器が日本の大型加速器研究機構などの研究機関が国際協力で参加し、2007年夏のビーム衝突開始をめざして急ピッチで建設が進んでいます。LHC加速器はこれはジュネーブ郊外にあるヨーロッパ合同素粒子原子核研究機構の地下100mほどに設置された一周27kmにも及ぶトンネルの中で、陽子ビーム同士を7兆電子ボルトという世界最高のエネルギーで正面衝突させる実験です。人類未踏のエネルギー領域でどのような物理現象が観測されのか非常に楽しみですが、興味深い研究テーマの中にブラックホールに関するものがあります。
ブラックホールを詳細に研究すれば私たちのまだ知らない未知の次元についての情報が得られると考えられています。そこで
LHC を使ってブラックホールを実際に作って研究しようという野心的なプロジェクトがあります。
ブラックホールを作るにあたって物質の密度を高めることを考えた場合、仮に地球をブラックホールにするためには10億分の1の大きさまで小さくしなければならず、その大きさは半径9ミリメートルとなります。
ではLHCでは何をどのくらい圧縮してブラックホールを作ろうとしているのでしょうか。LHCで考えられているのは陽子を光速近くまで加速する方法です。陽子は加速によって7兆電子ボルトもの運動エネルギーを持ちます。アインシュタインによると質量とエネルギーは同じものですので、陽子は大きな質量を持つことになります。このような陽子同士が衝突すると非常に小さな空間に膨大なエネルギーが存在することになりブラックホールになるのではないかと考えられています。ただし、本当にこの程度の「小さな」エネルギーでブラックホールができるのかどうかは、その他の物理の理論との関係があり、実際にやってみないとよくわからないと言われています。しかし、LHCで毎秒7個のブラックホールができるだろうと予測する研究者もおり期待されています。
ちなみに、量子論では微小なブラックホールは安定して存在できないことになっていますので、ジュネーブのLHCでつくったブラックホールが地球を飲み込んでしまうことはないと思われていますが、さてどうなりますでしょうか・・・。
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