Chapter-89
理化学研究所が温度が上がる縮む新物質を発見
地球外生命体を探索するSETI@Homeが正式に終了
インクジェットプリンター技術で移植用人工骨を作成
3メートルの"連結"クラゲ 国際海洋調査で発見
増え続けるHIV感染者
ネコ形天体発見
2005年12月24日
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理化学研究所が温度が上がる縮む新物質を発見
通常、物質は温度が上昇すると膨張して体積が大きくなりますが、理化学研究所と科学技術振興機構は、温度が上昇するにともない連続的に体積が小さくなる新たな物質を発見しました。この現象そのものは「負膨張」とよばれ古くから知られており、氷の温度が上昇して水になると体積が減少することも負膨張の一種です。水以外に負膨張を示す物質もこれまでわずかですが知られていました。負膨張する物質は、材料の熱膨張を抑制したり制御したりできるため、精密光学部品などのように、温度による形状の変化が起きてはならない精密部品などで使用されています。しかし、これまで実用化されている負膨張材料は、タングステン酸ジルコニウムなどほんの数例しかありませんでした。今回発見された新しい負膨張材料は、これまでの負膨張材料に比べ、温度変化に対する負膨張の割合が数倍大きく、負膨張によって形がゆがまない(等方的)性質があることがわかっており、これまでの物質よりもより広い範囲での工業的利用が期待されます。
地球外生命体を探索するSETI@Homeが正式に終了
SETI@homeは1999年に開始された地球外文明探査プロジェクトで、世界中のインターネットに接続した数百万台のPCの使われていないCPUサイクルを利用して、電波望遠鏡から採取したデータを解析して、地球外文明のテレビ番組、無線通信などの信号パターンを探索するというものですが、12月15日に終了しました。これまでの累積CPU時間は200万年、解析したデータは50Tバイトでした。今回のプロジェクトでは地球外文明の信号であると断言できる信号は見つけることができませんでしたが、グリッドコンピューティングの先駆けとして重要な役目を担い、今後も別の形で地球外文明探査や難病治療の方法を探るための手法として生かされることになっています。
インクジェットプリンター技術を使って数時間で移植用人工骨を作成
東京大学医学部付属病院などは2005年12月14日、移植する人工骨を、プリンターに使われるインクジェット方式を応用した成形機で数時間で作る技術を開発したと発表しました。先天性異常や腫瘍などの手術で骨を失った場合、人工骨によって補充されますが、これらの人工骨は水酸化アパタイトやリン酸カルシウムなどを高い温度で焼結し、それを削って加工するため、製作に一週間以上の日数や多くの手間がかかる点が問題でした。今回開発された新しい手法は、インクジェットプリンターの技術を応用したもので、あらかじめ必要な骨の形態を三次元データとしてコンピューター上に作成し、その図面通りに厚さ〇・一ミリのリン酸カルシウムの層を一枚ずつ印刷するように重ねていきます。この方法では内部に細かい空洞を自由に作ることが出来るため、これまでの焼結によって作る骨よりもより患者の骨との親和性が高くなるというメリットも併せ持っています。倫理委員会が承認すれば2006年1月から東大病院で人を対象にした臨床研究を始め、四月には臨床試験が実施される予定です。
3メートルの"連結"クラゲ 国際海洋調査で発見
日本の研究者も参加する国際的な海洋生物調査チームが新種とみられる生物を多数発見しました。その中で最も不思議なものとして発表されたのが北極海の深さ1500メートルの深海で撮影されたクラゲで、多くの個体がつながり、最大だと長さ3メートル近くになったものです。それぞれのクラゲは移動するために水を噴き出したり、えさを採ったりするのに適した形に変化して役割分担しているようです。この生き物はさらに数億年をかけて進化することによって、船のように海を航行しながらエサをとったり、敵から身を守ったりする軍艦のような巨大生命体に進化するのではないかと行っている研究者もいます。
増え続けるHIV感染者
12月10日は世界エイズデーでした。国連エイズ合同計画と世界保健機関(WHO)が2005年のエイズデーに発表した「エイズ報告書」によると、世界のエイズウイルス(HIV)感染者は4000万人を超え、アフリカのケニア、ジンバブエや、中米のカリブ海諸国などの一部地域を除いては新規感染者も増加し、2003年の感染者3750万人が、2005年には3030万人に達したとみられています。新規感染者のうち64%を占めるのはサハラ以南のアフリカですが、アジアにおいても、中国とインドにおける感染者の増加が著しく、インドネシア、パキスタンと共に対策が求められています。中国やインドでは、麻薬注射と売春のつながりによって感染が拡大し、女性の性産業従事者は、多くが知識に乏しく、無防備な状態にさらされているようです。日本の状況については「同性愛の男性が新規感染者の60%を占める」など、わずか十行程度しか触れていないものの不法滞在者など、日本のシステムの外に置かれ、薬が得られなかったり、予防が不十分な状況にある人も多く、実は途上国と同様の問題を抱えていると専門家は見ています。
ネコ形天体発見
大マゼラン雲にある超新星残骸DEM L316の可視光写真に、NASAのX線観測衛星チャンドラによるX線画像を重ねると、猫のような姿が浮かび上がることがわかりました。この超新星残骸は実は2つの超新星残骸が重なって見えている、非常に珍しいものだったのです。猫の頭は鉄を多く含むIa型超新星と呼ばれるタイプの爆発の結果で、、猫の胴体にあたる残骸は鉄が少ないII型超新星と呼ばれる全く異なる種類の超新星ですが、1匹の猫の頭と胴体に見える2つの天体は、実はたまたま重なって見えているだけで、本当は遠く離れていることもわかりました。
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