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Chapter-42 色を認識するメカニズム 人間の目に入ってきた光は角膜、瞳孔、水晶体、ガラス体を屈折しながら通過して網膜に到達し、人間は網膜に到達した光信号を解析して視覚を得ています。網膜は細胞で出来た厚さ120ミクロンの膜でここに存在する桿体細胞と錘体細胞が光の受容体です。片方の眼球の中に1億2千万個ほどある桿体細胞は1光子(フォトン)にさえ反応する超高感度な細胞でその役目は明暗の認識です。錐体細胞は片方の眼球の中に500万個ほど存在し色を認識しますが、感度は高く無く、反応するには100フォトンが必要です。 光 桿体細胞・・・明暗を認識 (高感度) 人間の目が色を認識する仕組みはこの錐体細胞が光の三原色に対応する三種類存在し、それぞれが受け持つ光の色に反応し、それを脳が統合することがその仕組みです。錐体細胞はその漢字の呼び名の通り細胞の先端に円錐形の構造があり、ここにヨドプシンと呼ばれる物質があり、ヨドプシンはオプシンと呼ばれるタンパク質とビタミンAであるレチナールが結合して出来ています。 ヨドプシン = オプシン + レチナール タンパク質であるオプシンはそのアミノ酸配列の違いによって3種類存在し、それらが437nmの青色、533nmの緑色、564nmの赤色に反応する仕組みになっています。このRGBをそれぞれ認識する細胞からの情報が集まっていろとして認識されます。反応する波長は動物によって異なっていて、たとえばある種の鳥は人間のRGBの他に362nmに反応する細胞も持っていて紫外線に近い光も認識できるようです。 オプシン → 3種類 RGB は光の三原色 以上の色を認識するメカニズムから判断すると、たとえばリンゴは赤色である564nmを反射するために赤く見えると考えることも出来ますが、人間が色を認識するメカニズムは複雑で「564nm の光だからそれは赤である」と認識するわけではないことがわかっています。 たとえば・・・・ 厳密に錐体細胞に届く光の波長と人間が認識する色が対応しているのなら、リンゴにあたる光の波長が変われば反射する光の波長も変わりますので、リンゴは常に赤く見えるとは限らないことになります。ところが、リンゴはいつも赤く見えますのことを「色の恒常性」と呼びますが、この「色の恒常性」は、眼に入射する光の波長そのものには「色彩」情報が欠けていることを示しています。 色の恒常性 = 照明の色が変わってもリンゴはいつも赤く見える では、錐体細胞が感じる波長と意識として認識する「色」を関連づけているのは何かというともちろんそれは大脳によるデータ処理です。仕組みはよくわかっていませんが、環境の光の波長によって様々に変わるリンゴからの反射光の波長を何らかの処理をして変換することによって意識として「赤」と脳が感じさせているようです。このことを「色彩感覚」といいます。 色彩感覚 = 目から入ってくる様々な波長の光に何らかの処理をしてリンゴをいつも赤く見せる能力 このような、「色彩感覚」言ってみれば脳が色を作り出す機能は生まれながら備わっていると考えられてきましたが、実際の神経回路網の構造と働きは未だ明らかになっていませんでした。ところが、独立行政法人 産業技術総合研究所の研究グループはこれまで色を認識する機能は生まれながらに存在しているという常識は誤りであることを以下に紹介する実験によって明らかにしました。 生まれて間もないサルを、1年間、単色光の照明だけで飼育しました。これは私たちがオレンジ色の照明のトンネルの中にはいると色を正確に認識できなくなるのと同じ環境を意味しています。これは色を認識できない、言い換えると色を知らない環境に生まれたときから1年間おいたことになります。というのも、自然の光や普通の照明光は、様々な波長の光を出していますので、錐体細胞が機能できますが、単一の波長成分しか含まない単色光のもとではすべての錐体細胞が全く同じ反応を続けますので、光の強さの濃淡しか検出できず、物体の「色」を検出することは不可能となります。 サル 1年後・・・ 赤、青、緑色のカードを用意 結果 人間や正常に育ったサル・・・正答 別の実験 あらかじめ赤いカードと黒いカードを渡しておく 赤の見本カードが呈示されたときには、手元の赤のカードを選択し、それ以外の色の見本カードが呈示されたときには手元の黒のカードを選択するように訓練 白色光で試験を実施 色付きフィルターにより照明光の波長成分を変化 このことは色を知らずに育ったサルは大脳によるデータの変換処理が出来ずに物体から反射してくる光の波長と認識する色を直結しているためであると思われます。 以上の研究によって、リンゴをいつも赤いと感じる「色彩感覚」は脳に元々備わる機能ではなく経験によって獲得されるものであることが明らかになりました。さらなる研究によって「色の恒常性」のメカニズムを明らかにすることが期待されます。 参考文献 水星周回無人探査機「メッセンジャー」打ち上げ
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