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Chapter-44 反物質で宇宙飛行 私たちの体を含め身の回りのものすべては原子が集まって出来ています。原子というのは炭素、水素、窒素のような中学校で学習する周期律表に登場するものです。原子は原子核の周りを電子が回っている構造をしていて、さらにその原子核は陽子と中性子から出来ていますが、中性子は無い場合もあります。たとえばもっとも単純な構造の原子である水素原子は陽子1個と電子1個から出来ています。原子核の中の陽子はさらにアップクォーク2個とダウンクォーク1個で出来ています。 アップクォーク、ダウンクォークとは何かというと、物質を構成するもっとも基本となる粒子で素粒子と呼ばれるものです。 素粒子はレプトンとクォークの2つのグループがあり、それぞれのグループに6種類の素粒子が含まれています。 これらの素粒子は電気的な性質・電荷を持っていますが、それぞれについて電荷が逆の反粒子が存在しています。たとえば電子の反粒子は陽電子で、電荷が逆のクォークから出来た陽子は反陽子です。 現在の宇宙は粒子で出来ていますが、反粒子で出来ている世界があるとするとそれは反物質の世界になります。その世界には原子を構成する素粒子の電荷が逆になっています。冒頭の水素の例で言えば陽子と電子すべての電荷を逆にした反水素、あるいは、プラスの荷電を持つ陽子を同じくプラスの荷電を持つ反電子で置き換えた軽い水素原子などです。 プラスの荷電を持つ陽子を同じくプラスの荷電を持つ反電子で置き換えた軽い水素原子については22Naが放出する陽電子を使って作ることができポジトロニウム(Ps)という名前が付いています。原子半径は水素原子の3倍、寿命はナノ秒のオーダーです。 原子半径 水素 0.53オングストローム 反陽子と陽電子からなる反水素原子は1995年に初めて11個作られ、近年のもっとも生成量の多い研究成果では17万個の反水素原子が出来たという報告もあります。ただ、その性質については現在研究中で今後の研究成果の公表が待たれていますし、ヘリウムやリチウムのようなより複雑な原子の反元素の合成も研究されています。 反物質の宇宙が存在するのかどうかは、宇宙の進化とその過程での素粒子現象のモデルによって違ってきます。少なくとも宇宙が誕生したときには粒子と反粒子は同じ数だけ存在したと思われていますので可能性としては反物質の宇宙は存在するかもしれません。この点については今なお素粒子物理・宇宙物理での大きなテーマの一つとなっていて、日本の高エネルギー加速器機構などでは宇宙からやってくるかもしれない反物質の探索を行っています。もし、宇宙空間に反物質で出来た領域があるならばそこから飛び出した反物質が宇宙空間をさまよって地球に届くことがあるかもしれないので、大気圏に突入して失われてしまう前に、まらた、大気圏内で生成する反粒子による妨害をさけるために宇宙空間でそれを捕まえようとしています。 さて、この反物質ですが私にとってはすばらしい使い道があります。反物質が私たちが宇宙空間を移動するときの有効なエネルギー源となりそうだというもので最後にその使い方について紹介します。 もう一つの例は反物質が物質と出会った時に放出する膨大なエネルギーをそのまま推進力に利用しようという物で、これは現在のロケットの燃料がそのまま反物質と物質になった物といえます。空間駆動推進が1980年代に考え出されたのに対し、こちらの方法は1930年代に「光子ロケット」という名称で考案された古いものです。ただ、空間駆動推進が「慣性力が働かない」という特徴を有していたのに対し、慣性系にある光子ロケットは加速と減速が必要ですので移動効率としてはややおとりますが、恒星間探査機のエンジンとしては十分実用的で2000年頃にはNASAでも精力的に研究されていました。研究の現在の進行状況は公開されていません。 参考文献 科学と教育 52巻2号 2004年 寒冷地のメダカを暖地で育てる 原子核が超高密度になる現象を発見 |