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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■ソフトバンクバブリッシングの雑誌「ねっため」2005年11月12月合併号でネットラジオおすすめ番組として紹介されました。 [最近の放送] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-94 地球観測衛星「だいち」は地球上の陸地を観測する衛星としては世界最大級の人工衛星です。この衛星の任務は大きく分けて次の4つです。 これら4つの任務を遂行するために次の3つの観測機器が搭載されています。 高性能可視近赤外放射計2型(アブニール2)は、420nmから890nmの可視光から可視光に近い赤外線領域の地表からの光をCCDで検出して電気信号に変換し、地上分解能10mで撮影します。アブニール2は災害時などの緊急観測に迅速に対応するために、振り子のように44°の角度で観測装置の角度を変え、衛星から離れた地点の映像も撮影することができます。 フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(パルサー)は、夜間地表からの光がない状態や、雲で地表が見えない状態の時でも地表の様子を観測することができるレーダーで、地表を詳細に観測する高分解能モードでは詳細な地域観測が可能で、広域モードに切り替えると解像度は観測幅に対応して観測幅40キロメートルの際の7メートルから観測幅350キロメートルの際の100メートルまで可変で解像度はやや劣るものの、約250〜350kmの観測幅で観測を行うことができ、氷山監視や熱帯雨林のマッピングなどへの利用が期待されています。 「だいち」の観測センサは、これまでにない高分解能であるため、観測に伴って従来にない大量のデータを発生しますのでデータ転送技術にも工夫が凝らされています。収集されるデータの量はプリズムが1分間あたりCD-ROM11枚分、アブニール2が2枚分、パルサーが3枚分。合計で毎分CD-ROM16枚分ものデータが収集されます。 3種類の観測センサのうち、プリズムとアブニール2については衛星に搭載されたコンピューターででリアルタイムにデータ圧縮を行います。地形などの画像データは画像圧縮を行っても画像の劣化がほとんど目立たず、効率よく圧縮を行うことでデータ伝送の効率を上げることができます。これによってプリズムのデータは4分の1または8分の1、アブニール2のデータは4分の3の大きさになります。 また、衛星が地球の裏側に行ってしまうとデータの転送が行われませんので、「だいち」には96GBのデータレコーダーが搭載されており、観測データはいったんここに保存されます。 さらに、「だいち」は2系統の通信経路が用意されています。一つめの経路は直接伝送と呼ばれ、地球観測センターのような地上の受信局の可視域を「だいち」が飛行しているときに用いられる伝送方法で、衛星から直接地上のアンテナに向けて発射する電波を用いて観測データを送信します。データ転送速度は120Mbpsで、10倍速のDVD-ROMドライブの読み出し速度に匹敵します。もう一つの経路はデータ中継技術衛星を用いた伝送で、静止軌道上のデータ中継技術衛星に向けて「だいち」からデータを送信し、データ中継技術衛星の増幅器で信号を強めてから地上に中継します。「だいち」よりもはるか上空の静止軌道を経由するので遠回りにはなりますが、地上局に比べて静止衛星は通信可能な時間が長く、より効率よくデータを伝送することが可能です。この経路の転送速度は240Mbpsで、音楽CDの200倍の速さです。現在はこのデータ中継衛星は1基しかありませんが、将来は2機体制となり、より効率の良いデータ転送が可能となる予定です。 「だいち」は精密な地図を作成するために緯度経度を正確に認識しする必要がありますので、衛星の姿勢を制御する装置も重要なハードウエアです。衛星の姿勢、位置のデータを取得する機器として、地球センサ、恒星センサ、GPS受信機などが搭載され、衛星の姿勢と軌道を保持するためのアクチュエータとして、ガスジェット、リアクションホイール、磁気トルカの3つのアクチュエーターが搭載され、180リットルの燃料タンクで5年以上の消費に十分な量のヒドラジンを載せています。 プリズムの分解能は2.5メートルで、ここから計算された許される衛星のふらつきは5秒あたりわずかに1万分の4度以内、位置の精度は軌道上で1メートル以内となっています。恒星センサーで衛星に記憶されている恒星のカタログとセンサーから得た情報を元に衛星の姿勢を 0.0002度の精度で制御します。GPSは地上を観測したときの衛星の位置を正確に記録するために使われます。GPS衛星から受信可能な信号は、周波数の異なるL1信号、L2信号の2種類がありますが、一般的なGPSS受信機で使用されるL1信号にくわえて「だいち」ではL2の信号も使用します。さらに、これらの信号が乗っている電波の位相を計測し、地球の電離層での電波の屈折を補正し、1m以下の誤差で位置決めを行います。 衛星の質量は約4トン。設計寿命は3年以上、目標は5年。軌道は北極と南極を結ぶ極軌道で、高度692キロメートルの低空を99分で一周します。この軌道は太陽同期軌道と呼ばれ、衛星は太陽にいつも同じ面を向けて地球を周回し、地球の東への自転との角度のずれを利用して地球全体の観測を行います。この軌道を利用すると、衛星の真下の地表にはいつも同じ角度で太陽光線が当たっているため、「だいち」のような観測衛星には最適の軌道ですし、太陽電池パネルや衛星内の冷却装置の設計などが簡単になるため信頼性が向上します。実際に「だいち」の太陽電池パネルは太陽の当たる片側のみに22メートルもの長さの9枚の太陽電池を連結した巨大なパドルを搭載しています。太陽の当たる方向は一定ですが、衛星自身は常に観測装置の付いた面を地表に向けているため、太陽から見ると太陽電池を太陽に向けて固定した状態で衛星本体は常に同じ方向にくるくる回っているように見えます。そのため「だいち」にはPDMと呼ばれる太陽電池パドル駆動機構が付いており、電力を衛星本体に供給しながら、常に太陽電池パドルを回転させ続ける仕組みになっています。 赤道上での高度は692キロメートル。46日周期で同じ場所を通過し、この間に地球を671周して全表面の撮影が一巡します。「だいち」の役目の一つに大規模災害の状況把握がありますが、大地が上空を通過して次に戻ってくるまでのサイクルが46日ですので、このままでは何か大災害が発生してその状況を観測しようとしても最悪で46日経過しなければ観測ができません。これでは不都合が多いので、3つの観測機器のうち、アブニール2とパルサーにはポインティング機能と呼ばれるセンサーの角度を変える機能が付いており、これによって地球上のどの場所であっても2日以内に観測が可能な体勢が取られています。この2日周期のことをサブサイクルといいます。 参考までに気象観測衛星「ひまわり」の高度は36000キロメートル、静止衛星のため周回周期は24時間となり、「だいち」は地表すれすれをゆっくり飛んでおり、「ひまわり」ははるか彼方をものすごいスピードで飛んでいるということになります。 打ち上げは日本時間で平成18年1月24日10時33分にH-IIAロケット8号機によって行われ、無事軌道投入に成功し、引き続き行われた太陽電池パドルの展開、データ中継衛星との通信用アンテナの展開も予定道理完了、発生電力、衛星姿勢も共に正常とのことです。 今回打ち上げに用いられたHII-Aロケットは2月には気象観測衛星「ひまわり6号」を補完する運輸多目的衛星「MTSAT2」を搭載した9号機の打ち上げが予定されおり、1カ月に2機のHII-Aロケットを打ち上げさらに、赤外線天文衛星ASTRO-FをM-Vロケットで2月18日に打ち上げることになっていて、2ヶ月の間に3基の国産ロケットを打ち上げる前例のないラッシュとなっています。 |