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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■翔泳社”ポッドキャスティング入門”でオススメ番組として紹介されました。 [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-105 光触媒は日本で開発された技術ですが、私たちの生活の中で光触媒が活躍している領域と言えば温泉水の浄化や独りでにキレイになる窓ガラスやトイレなど何かをキレイにする、という場面に限られていました。ところが、最近新たな光触媒が発見され、光触媒の元々の意義である水を分解するという作用が再び着目されています。 水は水素と酸素の化合物で中学校の理科の実験では水の中に電極を入れて電流を流すと電気分解が起きて電極から水素と酸素がそれぞれ発生したと思います。面白いことに一報の電極を酸化チタンにすると電圧をかけなくても酸化チタンに光を当てるだけで水が分解されます。これは1972年に日本の研究者によって発見された「ホンダ−フジシマ効果」と呼ばれます。 ところが、近年の地球温暖化問題に絡めてエネルギー源としての水素が再び注目され始めました。その理由は水素は燃やしても二酸化炭素を出さないクリーンな点にあります。太陽光を使って水から水素を取り出すためには、反応の場である光触媒にいくつかの条件が求められますが、最近、それらの条件を満たした酸化チタンを越える光触媒が日本の研究者によって複数発表されました。 東京理科大学の工藤教授らの研究チームは第一段階として紫外線を使った光触媒の効率化に取り組み、タンタル酸ナトリウム光触媒を開発しました。この光触媒のエネルギー源は紫外線ですが吸収した光が反応に使われる割合を示す量子効率では56パーセントという世界最高の効率でした。工藤教授はさらに材料に改良を加え、バナジン酸ビスマスを用いた可視光で酸素を発生する光触媒と、可視光で水素を作り出すチタン酸ストロンチウムの光触媒を組み合わせて、両者で3価の鉄と4価の鉄で電子の授受を行うことにより、可視光で水から酸素と水素を作り出す光触媒系を開発しました。 また、東京大学大学院堂免教授は赤や黄色の顔料オキシナイトライドが色がある、すなわち可視光を吸収しているという事実に着目し、窒素を含む全く新しい発想の窒化ガリウムと酸化亜鉛の光触媒を開発し、可視光での水素の生成に成功しました。 量子効率は工藤教授の2つの光触媒を組み合わせる方法で0.4パーセント、堂免教授の方法で0.2〜0.3パーセントです。学会での目標値は量子効率30パーセントとされており、まだ目標値には遠くおよびませんが、可視光線だけで水から水素が作り出されたことは画期的なことです。 国の水素エネルギー開発計画の目標は2030年までに水素燃料電池車と家庭やオフィスの電源供給用の水素燃料電池で全エネルギー消費量の3.6%をまかなおうとしています。現時点で最も安価に水素を得る方法は天然ガスから取り出すことですが、このためには化石燃料が必要でさらにトータルの環境負荷で考えると二酸化炭素の発生量を減らすことができないため、新たな水素の生産方法の開発が求められており、光触媒もその有望な選択肢の一つとなっています。 「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ ユニ・チャーム、徳島大学、三菱化学ビーシーエルの研究グループは、乳幼児に多い皮膚疾患の一つ「あせも」の発症に、「表皮ブドウ球菌」と呼ばれる細菌が大きく関与していることを突き止めたと4月4日にプレスリリースで発表しました。表皮ブドウ球菌は、人間の皮膚などに普通に存在する細菌で病原性はないとされています。乳幼児が使う紙おむつは品質の改良が進み、おむつ皮膚炎とよばれるかゆみの原因は大幅に低下しましたが、それでもおむつの内部におけるあせもの発症はいまだに解消されておらず、乳幼児の肌トラブルとして大きな問題となると共に、母親の負担ともなっています。そこで産学の各専門分野との共同でその発症原因についての研究を実施したところ、乳幼児の汗疹発症部位において表皮ブドウ球菌数の存在が極めて顕著に増加していたということです。大人のボランティアによる実験で故意に発症させたあせもにおいても表皮ブドウ球菌が増加し、抗菌剤で表皮ブドウ球菌を抑制することによってあせもも治まることが確認されました。 [NASAが小惑星探査機ドーンの開発中止を決定] はやぶさと同じくイオンエンジンを搭載したNASAの小惑星探査機「ドーン」は今年6月打ち上げを目指して開発が進んでいましたが、この度プロジェクトが中止されることになりました。ドーンははやぶさが着陸したイトカワとは進化の段階が異なる小惑星の探査を行うことになっていました。日米の研究者ら両探査機のデータを合わせて検討することによって天体の進化の過程を解明しようとしていただけに、非常に落胆しています。なお、プロジェクト中止の理由はドーンを開発するために必要な予算が約50億円不足するためだと担当者が語りました。ちなみにドーンの総予算は約400億円で、はやぶさの2倍でした。 「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ [手首のある魚の化石が発見された] 米シカゴ大などの研究チームがカナダ北極圏にある島の約3億8000万年前の地層(古生代デボン紀後期)から手首のような構造をした胸びれを持つ新種の魚類化石を、見つけ、6日付の英科学誌「ネイチャー」に発表した。4本足の両生類へ進化する直前の魚類とみられ、研究チームは「魚類と両生類をつなぐ『失われた輪』を埋める発見だ」と分析している。 [高級牛肉の霜降り度合いは遺伝子が決めている] 京都大学佐々木名誉教授の研究チームが牛の肉を「霜降り」状態にするうえで重要な働きを、血管の成長などにかかわる「EDG1」と呼ばれる遺伝子が担っていることを発見し、日本畜産学会で発表しました。霜降りは、脂肪が筋肉に網目状に分散した状態で、エサや飼育方法などにも左右されます遺伝的な要因も大きいと考えられていました。霜降り肉をつけやすい大分県産の黒毛和種と、乳牛のホルスタインとで、それぞれ成長に従って筋肉でどのような遺伝子が働いているかを比較しながら調べた結果、「EDG1」が霜降りの形成に関係し、この遺伝子の3000近い塩基配列のうち166番目が、4種類ある塩基のうちのグアニン(G)かアデニン(A)かで、霜降りの程度が変わってくることを発見。グアニン型だと、より高級な霜降り肉をつけやすいことを確認したとのことです。 「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ [エンディング・他局の科学番組放送予定] |