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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■翔泳社”ポッドキャスティング入門”でオススメ番組として紹介されました。 [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-99 花粉飛散経路探索プロジェクト 兵庫県立西はりま天文台公園のなゆた望遠鏡が世界で初めて二重の円盤を持つ恒星を発見しました。
日本近海のホエールフォール
[ウナギの一生について] ウナギは浜名湖での養殖が有名であるように淡水魚として知られていますが海で産卵・孵化をおこなう産卵回遊を行います。ウナギのように海で卵を産んで淡水で成長する生活サイクルを特に降河回遊(こうかかいゆう)といいます。ウナギの一生のうち、産卵から幼生の時代にかけてはその生態はほとんど謎に包まれていています。今回、塚本勝巳・東京大海洋研究所教授らの研究グループがニホンウナギの産卵場は、グアム島の北西約200キロの「スルガ海山」にあることを突き止め、イギリスの科学雑誌ネイチャー2006年2月23日号にbrief communicationsとして発表しました。 ニホンウナギは日本の国内で流通するウナギの9割近くを占める食用として代表的な種で、日本のほかに中国、韓国など東アジアに広く分布する種類です。淡水で成長しますが、大人になると産卵のため川を下り海に入ります。しかし、その後この親ウナギがどこへ行くのかは全く不明でした。同様の生活様式をとるアメリカやヨーロッパのウナギは西インド諸島のSargasso Seaで産卵し、アメリカ東岸やヨーロッパに回遊することが20世紀初頭から続けられた研究によって判っていました。 今回研究者らは調査船「Hakuho maru」からプランクトン採取用の網を投入し、体長4.2mm〜6.5mmの産卵直後のニホンウナギの幼生を130匹、それよりもやや成長した体長11〜18mm程度の幼生を60匹採取しました。これらは船上でのリアルタイムPCRと持ち帰ってからのさらに詳細なDNAの検査でニホンウナギであることを確認しました。耳石と呼ばれる炭酸カルシウムでできた粒状の分泌物の成長を示すリング状の模様から判断してこれらの幼生は採取の2〜5日前に誕生してたことが判りました。これらの移動距離から逆算すると産卵域がグアム島の北西約200キロの「スルガ海山」であることはことによって確信されました。しかし、ウナギの幼生が確認されたのはスルガ海山からやや西よりの海域ばかりで、スルガ海山で投入した網からはウナギに関連する卵や幼生は確認されていないことが惜しまれます。 太平洋の海流から推定すると、ふ化したウナギは赤道周辺の時速約1キロメートルで西に向かって流れる海流に乗ってフィリピン沖に到達し、ここで海流は南向きのミンダナオ海流と北向きの黒潮海流に別れますが、ウナギは黒潮海流に乗り3ヶ月から半年をかけてシラスウナギへ成長しながら日本へやってくるルートが今回の研究と1960年代以降の海洋調査の結果を世界地図にプロットすることによって見えてきました。 日本や中国、東南アジア沿岸にたどり着いたウナギは川をさかのぼります。ウナギは普通エラ呼吸ですが、皮膚でも呼吸することができるので流れの激しいところは川岸に上陸し、水際を這ってさかのぼることが知られています。オールガイドドットコムが提供する語源由来辞典によると物価・気温、地位などが見る見るうちに登ることを示す「うなぎのぼり」という表現はうなぎがたとえ急流であっても、たとえ水が少なくても登っていくことから来ているそうです。川に入ったウナギは小動物を捕食しながら長し、5年〜12年ほどかけて成熟し、再び海に戻っていきます。日本の河川からグアム島周辺の産卵海域へ戻るにあたっては、塩分濃度や水温の違いなど海水の性質の違いを記憶しているものと思われています。 産卵場を突き止める研究はこれまで50年以上も続けられてきましたが判明していませんでした。日本の沿岸で養殖用に採取されるシラスウナギはすべて今回発見されたグアム島の北西約200キロの「スルガ海山」の海域から来るとみられます。したがって、ニホンウナギは一生の間に数千キロの大回遊をすることになります。 現在のウナギ養殖は、日本沿岸に回遊してきた天然のシラスウナギを捕まえて成魚に養殖しますが、近年、シラスウナギの量が激減しており、大規模な回遊をするウナギは海水温の変動など地球環境の変化の直撃を受けているのではないかと考えられます。 [エンディング・他局の科学番組放送予定] |