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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
WMAPは宇宙マイクロ波背景輻射を宇宙空間から観測することを目的とした人工衛星ですが、その成果として最も有名なのは宇宙の年齢の決定です。最新の解析結果では宇宙の年齢は137億3000万歳とされています。 WMAPは宇宙の組成についてもかなり具体的な数値を出しました。その結果は、宇宙は通常の物質4パーセント、ダークマター20パーセント、ダークエナジー76パーセントからなっているというものです。WMAPで得た宇宙マイクロ波背景輻射のスペクトルは宇宙マイクロ波背景輻射が地球に到達するまでにどのようなところを通過したかの記録を残していますので、これを解析することによって前述のような数字が得られます。 さて、WMAPは次の目標としてインフレーション理論の解明に挑んでいます。宇宙誕生直後にインフレーションと呼ばれる急激な膨張、つまり非常に短い時間で空間がものすごい速度で膨張した段階を経てビッグバン宇宙が誕生したというのがインフレーション理論で、宇宙マイクロ波背景輻射の揺らぎを含め、現在の多くの観測結果をうまく説明できると同時に、インフレーションを考えなければ、今この宇宙がこのような姿で存在していることを説明することができません。 インフレーション理論と言えば佐藤勝彦やグースが発表した理論が有名で、多くの人にとってインフレーション理論と言えば佐藤勝彦理論だと思いますが、実は、多くの研究者によって様々なインフレーション理論のモデルが提唱されています。それぞれのモデルによってインフレーションがどのようなものであったかを予測した結果にわずかな違いがあります。WMAPの観測結果とそれぞれの理論によって予測された結果を比較して、観測結果から外れている理論を取り除き、もっとも正確なインフレーション理論を選び出し、宇宙の誕生を科学的に説明するのが目標です。 何を観測すればよいかと言えば、研究者たちは「宇宙マイクロ波背景輻射の偏光を観測することによってインフレーションがわかる」といいます。光は反射することによって偏光しますが、宇宙マイクロ波背景輻射は電子と衝突することによって、宇宙誕生から38万年後、光が直進できるようになったその瞬間に偏光し、その状態は現在の宇宙マイクロ波背景輻射の中にそのまま埋め込まれています。ただし、現在の偏光は宇宙誕生後に再電離と呼ばれる現象で放出された電子による偏光も含んでいます。最新の観測結果ではWMAPの観測結果の9±3パーセントが再電離によるものだということがわかっていますので、この値で観測結果を補正することによって、その観測結果を正確に予測できないモデルによるインフレーション理論は除外することができます。 実は偏光には二種類あって、観測に成功している光と電子の衝突による偏光の他に、重力波に由来する偏光があることおがわかっています。重力波はインフレーションの瞬間に生み出され、空間を伸ばしたり縮めたりしながら光の速度で広がった時空の振動です。この測定に成功すれば、重力波がいつ発生したのかがわかります。重力波はインフレーションの瞬間に発生したはずですので、時空の振動が始まった時刻を求めることができインフレーションが起きた時刻を正確に求めることができます。 正直なところ、重力波由来の偏光を観測するにはWMAPの性能は不足していますが、現在様々な方法で重力波による偏光を検出し、宇宙誕生の時間やその時なにが起きたのかをより正確に知ろうとする研究が進められています。 ※番組時間内にご紹介できなかったより詳しい解説と、その他の最新科学情報は有料メールマガジンまぐまぐプレミアムで配布中です。 [他局の科学番組] □ディスカバリーチャンネル |