2011年6月25日 記憶は、お店で買い物の合計金額を計算いる最中の計算結果を一時的に覚えているような短期記憶と、以前読んだ本の内容をあとからでも思い出せるような長期記憶に分けられ、長期記憶は、脳の中心部にある海馬と名付けられた領域で生じた短期記憶が大脳表面の新皮質へと送られることによって形成されると考えられています。数日から数週間をかけて新皮質で長期記憶が形成されるにつれ、海馬での短期記憶は失われていくようですが、記憶固定のメカニズムはこれまでよく分かっていませんでした。 海馬が機能しないような注射をしたラットでは短期記憶が失われ、新皮質の機能を止める注射をしたラットでは長期記憶のみが失われ、短期記憶は海馬で、長期記憶は新皮質で形成されているというこれまでの説を確認することができました。また、ラットが長期記憶を形成する初期段階で海馬の機能を停止させると長期記憶は形成されませんでしたが、何かを覚えて15日経過してから海馬の機能を停止させると長期記憶は正常に形成され、長期記憶の初期段階で海馬が正常に記憶する必要があることがわかりました。けれど、新皮質は記憶直後に機能を止めても長期記憶は形成されませんでしたので、新皮質は記憶を形成する過程の一部始終で正常に機能していなければだめなようです。 このときにラットの脳の中で起きている化学変化はどのようなものかを調べたところ、新皮質におけるヒストンH3というタンパク質のアセチル化と呼ばれる化学変化が、長期記憶を形成すると共に進行することがわかりました。そこで、このアセチル化化学反応が起きないように、酵素を記憶形成直前にブロックしたところ、アセチル化が阻害されると同時に、長期記憶の形成も阻害されました。逆に、アセチル化されたヒストンが元に戻る、つまり覚えたことを忘れてしまう仕組みを妨害すると、結果として新皮質のヒストンアセチル化が総量として促進され、長期記憶もそれに伴って増強、つまり忘れにくくなりました。 ◇ ◇ ◇ (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
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