2007年10月20日
Chapter-177 2007年ノーベル・生理学医学賞
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2007年10月8日にノーベル生理学・医学賞が発表されました。受賞理由は、マウスの遺伝子の特定の場所を操作することによって、目的とする機能を失わせた実験用動物を作る技術をES細胞をもちいて発明したということで、この技術によって人間の病気の仕組みの解明や治療薬の開発方法が大きく前進しました。
受賞者は次の3人です。
Mario R. Capecchi マリオ・カペッキ米ユタ大教授(70)
Martin J. Evans マーチン・エバンス英カーディフ大教授(66)
Oliver Smithies オリバー・スミシーズ米ノースカロライナ大教授(82)
細胞分裂開始直後のある段階の受精卵は胚盤胞と呼ばれます。胚盤胞の細胞のうち大部分は胎盤など胎児の発育を助けるための組織へと成長し、残りのごく一部の細胞が胎児として成長します。この胎児の組織、臓器になる一群の細胞を「内部細胞塊」と呼びます。様々な臓器に成長することのできる細胞を幹細胞といいますが、内部細胞塊は多くの種類の幹細胞の中でも生命すべての元になる究極の幹細胞です。この細胞を取り出して培養すると、幹細胞の性質を持ったまま細胞分裂を無制限に続け増殖します。この細胞をES細胞と呼びます。
マウスのES細胞は、遺伝子に様々な操作が可能です。ES細胞の中では外部から与えた遺伝子と元々の幹細胞由来の遺伝子との間で相同組換え現象が起きますが、これを利用して、狙った特定の遺伝子領域のみ機能を失わせることができます。
遺伝子を操作したマウスのES細胞を初期胚に注入した後にマウスの子宮に戻し、出産させることで、個体に成長させることができます。この個体は操作された遺伝子を組み込んだES細胞由来の細胞と元々の多能性幹細胞由来の細胞の両方に由来する細胞が混じった組織・臓器を持って成長します。これをモザイクマウスと呼びます。モザイクマウスの中からES細胞に由来する生殖細胞を持ったマウスを選び出し交配を続けることによって全身の細胞が改変遺伝子由来のマウスを得ることが可能です。相同組換えによって、特定の遺伝子の機能を止めたマウスをノックアウトマウスと呼び、ノックアウトマウスがどのように成長するかを調べることによって病気と遺伝子の関係を研究することができます。
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