2011年7月23日
Chapter-350 農薬耐性雑草
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院内感染では病原菌は菌の変化によって薬が効かなくなる薬剤耐性問題が広く知られています。問題は同様に大きいのですが、一般には知られていない薬剤耐性問題があります。それが、除草剤耐性雑草です。現在最も広く使われている「グリホサート」と呼ばれる化学成分を含む除草剤「ラウンドアップ」の効かないスーパー雑草が広がりつつあるのです。
米国ではラウンドアップの効かない雑草が生えている農地の面積が4万5000平方キロメートルにまで拡大していることが明らかになりました。米国の農耕地は160万平方キロメートルもありますので、全体からすればごくわずかな面積に過ぎませんが、注意しなければならないのはこの拡散がわずかこの10年間の出来事だと言うことで、特に2007年以降で分布面積は5倍にも広がり、スーパー雑草の拡散は加速度的に進行しているように思われます。これらの雑草が発生した農家ではまるで除草剤が発明される前の昔のように人海戦術で草を刈ったり、最悪な場合、農耕地の放置に至ったりする場合もあります。
グリホサートが発見されたのは1970年のことでしたが、グリホサートには雑草に直接振りかけなければ効果が出ないという、農家にとっては使いにくい性質も併せ持っていましたので、発売後しばらくはそれほど売れ行きは伸びなかったと言います。ところが、ラウンドアップを開発したモンサント社は1990年代に、ラウンドアップの効かない遺伝子を持つ大豆の開発に成功したのです。モンサントの研究者らはラウンドアップを含んだ水の中で生きることのできる細菌を7年かけて探し出し、そのランドアップ耐性遺伝子を取り出すことに成功しました。そして、この遺伝子を大豆の細胞に組み込む実験を行い、何万回もの試行錯誤の結果、ついに、ラウンドアップをかけても枯れない大豆の開発に成功したのです。
1996年、モンサントはこの大豆の種子を「ラウンドアップレディー」というブランドで発売しました。ラウンドアップレディーは商業的に大成功し、米国のみならず、アルゼンチン、ブラジルなどの農業国で農業革命を巻き起こしました。なんと言ってもラウンドアップレディーを育てれば、雑草が生えてもラウンドアップを農作物の存在を気にすることなく散布しても、見事に雑草だけが枯れてくれるのです。ラウンドアップとラウンドアップレディーの組み合わせは単に除草作業を省略できるだけではなく、既存の除草剤に比べて、ラウンドアップの安全性は非常に高く、土壌への残留も非常に少なく、土を耕さずに農耕が可能になるため土壌の流出や大規模な耕耘機を動かす燃料の節約もでき、環境負荷も軽減することができるすばらしい除草剤だったのは否定のしがたい事実でした。
ところが、進パデュー大学の研究者らによると、ラウンドアップが使われるようになって以降、1年に1種類の割合でラウンドアップの効かない雑草が増えてきたと言います。病院などで、病原菌を防ぐ場合には、菌に耐性が生じないように複数の殺菌剤を用意してそれをローテーションしながら使用するのが一般的です。研究者の視点ではラウンドアップばかりを使い続ければラウンドアップに耐性のある雑草が誕生することは何の不思議でもないことのようです。
雑草がラウンドアップに耐える仕組みを調べてみました。グリホサートはEPSPSという酵素を妨害して雑草が成長するために必要なアミノ酸の合成を妨害します。それに対抗するためにあるラウンドアップ耐性雑草ではEPSPSの遺伝子を大量にコピーし、最大でEPSPS遺伝子を160個も持っている雑草もいました。つまり、ラウンドアップがEPSPSの働きを妨害しようとするのなら、妨害しきれないほど大量にEPSPSを作って生き残ろうとする作戦をとっていたのです。
このまま、スーパー雑草の誕生が続けば、人類は雑草に対して打つ手が無くなり、農業は100年前の手作業で雑草を刈り取る時代に戻ってしまいます。理想的な農業は遺伝子組み換え作持つやラウンドアップを超える能力を持つ除草剤に頼るのではなく、肥料の工夫や高配による品種改良による食糧の増産だと考えますが、そのためには化学薬品と遺伝子組み換えに頼った現在の農業の仕組みを根本から考え直す必要もあり、生やさしいことではなさそうです。
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