2011年7月30日 マックスウェルの悪魔が破綻させようとしている熱力学第二法則とはブリタニカによると、「マクロな見方をすれば現象は一般に不可逆変化であることを主張する法則」とのことで「温度差を作り出すために加えたエネルギー以上のエネルギーを取り出すことはできない」とも言うことができます。極論すれば、もし、このパラドックスを実現することができれば化石燃料を燃やさなくても、マックスウェルの悪魔を連れてくるだけで空気からエネルギーを取り出してエンジンを作ることができることになります。 熱力学第二法則が破れると言うことは何も手を加えることなく温度の低いものから温度の高いものへ熱を移すことが可能になったりする現象が起きることになります。空気の入った箱をイメージしてください。箱の中の空気の温度が高いということは、空気を構成する粒子が激しく動いている状態で、温度が低い状態では分子はより静かにしています。この箱の右側を熱く、左側を冷たくする方法を考えてみましょう。箱の中の温度が25度だった場合でも、箱の中のすべての分子が25度に相当する運動をしているわけではなく、激しく動く分子もあまり動かない分子も混在していて、全体として25度になっています。この状態で箱の中で温度差を作るには、平均の速さより速く動く気体の分子を右に、遅く動く分子を左に集めればよいのです。 そこでマックスウェルは箱の中を二つに仕切り、そこに開閉できる扉を設置して、扉を開閉する一匹の悪魔を考えました。この悪魔は次の4つの行動を順番に実行します。 1.気体粒子の速度を観測する。 つまり、この悪魔は右の部屋から遅い気体分子、つまり箱の中を冷やす分子がくると扉を素早く開閉してその分子だけを左の部屋に通し、左の部屋から速い気体分子、つまり箱の中を温める分子がくるとまた扉を素早く開閉し右の部屋に通すのが役目です。これを繰り返せば容器の右には速い気体分子、左には遅い気体分子が集まり、左右に温度差が出来ることになります。 気体分子は何にも操作されずに扉を通過するので外部からエネルギーは受け取りません。つまり、マックスウェルの悪魔がいると容器の中の気体分子はエネルギーをもらわないで、温度差を作り出すことができます。 そしてついに東京大学と中央大学の研究者らは情報をエネルギーに変換する仕組みの存在を明らかにするための実験系の開発に成功しました。実験装置はエネルギーの高低差を複雑な方法で作り出している装置ですが、イメージ的に言えばらせん階段のようなものです。らせん階段の途中に分子を置くと、この分子はブラウン運動でランダムに運動しているので、階段の上がり降りを繰り返しながら、平均すると下の段へ移動していきます。 研究者らはこの実験系で、測定で得た情報量と粒子が得たエネルギーを精密に測定することにより、情報をエネルギーに変換できることを初めて示すことに成功しました。情報をエネルギーに変換する仕組みはこれまで知られていなかった新理論で、この理論を示す計算式も導き出すことに成功しました。エネルギー変換効率は約30%でしたが、このエネルギー効率はさらに改善することが可能で、将来的には自律的に動くナノデバイスを作ることも目標の一つとして挙げることができます。 ◇ ◇ ◇ (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。
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