2009年12月12日
Chapter 268 臭わない病気、聞こえない病気に関する最新情報
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臭いは脳で感じ取られますが、臭いの分子が脳の中に入ってくるわけではなく、鼻でキャッチした情報だけが流れますので、それを伝える神経細胞がダメージを受けると臭いを感じなくなります。臭いを感じ取る神経細胞には再生能力がありますので、若年で発生した嗅覚障害は自然治癒することがほとんどです。ただ,高齢者では完治しない患者さんも少なくありません。
インターロイキン15という免疫機能に関わる物質があります。この物質は神経細胞への作用も持っていて、マウスでの実験から臭いを感じる神経系の構築にインターロイキン-15が関わっているらしいことがわかっています。神経の再生能力が歳をとるにつれて低下するのは、酸化した脂質が細胞に蓄積し神経の再生時に生み出される細胞の数が減ってしまうためだと考えられています。このような細胞の再生能力の低下によって生じた嗅覚障害を防止する効果的な方法はまだ見つかっていません。ただ、効果がありそうな漢方薬はみつかっていますし、嗅覚障害に女性ホルモンが関わっていることも示唆されていますので、これをヒントに将来解決策が考え出されるかもしれません。
耳が聞こえなくなるきっかけは事故や薬物の副作用、ヘッドフォンステレオの音の大きすぎなど様々ですが、加齢が原因で聞こえなくなることも多くあります。これを老人性難聴といいます。老人性難聴にはミトコンドリアを自殺させる遺伝子が関わっていることがわかりました。
ミトコンドリアは細胞の中にある小さな細胞のような組織で、酸素を使ってエネルギーを作る役目を担っています。ミトコンドリアの自殺と難聴の関係を確認するために、ミトコンドリアが自殺しなくなるように遺伝子操作したマウスを観察したところ、老人性難聴に相当する障害が起きないことがわかりました。
難聴の対処には一般的には補聴器が使用されます。ひどい難聴の場合は、人工内耳を埋め込む手術が行われます。これは、マイクで拾った音を電気信号にして蝸牛に直接伝え、神経を刺激するものです。また、細胞の成長を促進する物質を蝸牛周辺に適用することによる再生医療も現在進行中です。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼知的刺激のある生活をして認知症を防ごう
フランス国立衛生医学研究所の研究チームが65歳以上の住民を対象に行った研究の結果、クロスワードパズル、トランプ、ボランティア団体への参加や芸術活動などの知的刺激を受けることにより、高齢者の認知症とアルツハイマー病リスクは50%低下することがわかりました。
▼うつ病や不安が肥満リスクになる
ロンドン大学の研究者らが19年をかけた調査に基づき、うつ病や不安などの精神障害が肥満リスクの増加と関連していると発表しました。これまでも同様の調査結果は出ていましたが、これまでは精神障害が肥満リスクを高めるのか、肥満が将来の精神障害の危険因子なのか、両者の因果関係は明らかになっていませんでした。
▼PTSDの発症には遺伝や環境などの因子も影響する
心的外傷後ストレス障害(PTSD)はかつて、衝撃的な経験が原因となる精神障害と考えられていましたが、最近の研究では遺伝的な要因も関与することが明らかになってきました。神経細胞で情報を伝達する化学物質のやりとりに関わっているセロトニン・トランスポーターというタンパク質の遺伝のパターンは大きく3つに分けることができ、もっともPTSDになりやすい遺伝子型と最もなりにくい遺伝子型の人を比べた場合、発症率は2倍以上異なっていたということです。
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