2009年11月28日
Chapter 266 宇宙でがんばっている探査機たちに思いをはせる

前回の放送トップページ次回の放送


小惑星探査機「はやぶさ」

 太陽系内を満身創痍で飛行している、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」の最新情報です。地球への帰還がいよいよ来年、2010年6月に迫っています。ところが、11月4日に作動していたイオンエンジン1基の劣化による電源系のトラブルが発生し、自動停止していることがわかりました。停止したイオンエンジンは再起動させることができず、そのままでは地球に帰還するための加速が足りず、帰還にも支障が生じるところでした。

 JAXAのチームが対応策の検討を重ねた結果、故障したエンジンの再起動は断念し、故障のため停止中だった2基のエンジンを再使用することにしたのです。しかも、それらのエンジンの正常な機能同士を組み合わせ、2台合わせて1台のエンジンとして使用することにしたというのです。この方法で、イオンエンジン1基分の推進力を得ることができることがわかったため、はやぶさの2010年6月の地球帰還計画は維持できる見込みとなりました。今回使用した回路は、通常の飛行では必要ない配線ですが、万一に備えて準備されていたものだそうです。「はやぶさ」は動いている方が奇跡のような状態だそうですが、地球へ帰還するという奇跡が起きると良いですね。

火星探査機「スピリット」

 スピリットは、NASAが火星に送り込んだ無人探査車です。打ち上げは2003年6月。2004年1月に火星に着陸し、姉妹機のオポチュニティと共に当初の予定を大幅に延長して調査を続けていました。ところが、スピリットは2009年5月に砂地を走行中に車輪が砂に埋まってしまい、現在身動きが取れなくなっています。観測装置も太陽電池も正常ですので、その場に留まったまま観測は続けていますが、NASAのチームは何とか脱出させようと、その方法を探っているというのが現状です。

 NASAの基地内に、人工的に火星の砂の性質を模した地面を作製し、スピリットと同じ探査機を同じように埋めて、直面している状態とそっくりの環境を再現して実験し、どのようなコマンドを送信すれば脱出することができるかが慎重に検討され、脱出作戦は2009年11月17日から開始されました。まずスピリットを前進させるコマンドを送信したのですが、スピリットの傾斜が限界になったためにこれはすぐに中断され、スピリットの状況に変化は起きませんでした。スピリットの体勢を立て直して、19日に再びコマンドが送信され、こちらの方は期待通りの動作を行うことができました。その結果、わずかにスピリットは左斜め前に前進し、前輪がわずかに埋まった状態から上ったと言うことです。ただ、これらの動きというのは脱出するに必要なすべての動きに比べるとごくわずかですので、今後も慎重に検討を重ねながら脱出に取り組むということです。

 JAXA、NASA の両探査機はいずれも当初想定していた稼働時間を遙かに超えて稼働中で、今もなお宇宙空間で地球からの支援の電波に耳を傾けて孤軍奮闘しています。正直、どちらの探査機も危機的状況に陥っています。「はやぶさ」に搭載されたカプセルの中に入っているかもしれないイトカワの試料が重要であることは変わりありませんが、地球月外天体に(予想外にも)着陸した探査機を地球に帰還させるという、これまで誰も達成したことのなかった壮大な目標に挑んでいます。「スピリット」も身動きがとれなくなった後も周辺の観測を続け新たなデータを送り続けています。観測機器が正常に稼働している限りスピリットをあきらめないという固い決意で地上での実験とコマンド送信が繰り返されています。二機の探査機に奇跡が起こることを願っています。

ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタのコーナーです。

▼NASAの月面探査機「LCROSS」が月に水があることを証明
 NASAは2009年10月に、Lunar Crater Observation and Sensing Satellite:LCROSSが発射したロケットを月面に衝突させ、月の構成成分を観測する実験を行いました。衝突させた場所は月の南極付近にある永久影に隠れたクレーター「カベウス」でしたが、この時の観測結果によって、月に水が存在することが証明されました。
 観測は水の観測に有利な近赤外線を使って行われ、本物の水を近赤外線で測定した場合と全く同じデータが得られたため、月には水が存在すると結論づけられました。月に水があれば、将来の有人探査において、飲み水や呼吸用の酸素を抽出したり、岩石からロケット燃料の原料を調達したりできるようになる可能性が高くなります。

▼欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機ロゼッタ飛行中
 NASAと共同で行われている欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機ロゼッタが、地球を使って行う3回のフライバイにいずれも成功し、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星へ向かいました。到着は2014年の予定で、氷で覆われた彗星表面に初めて探査ロボットを着陸させる予定です。

▼小惑星帯に入った、小惑星探査機「ドーン」
 2007年9月に打ち上げられたNASAの小惑星探査機「ドーン」が2009年11月13日に、火星と木星の間にある小惑星帯に入ったようです。この後2011年に小惑星ベスタ、2015年に準惑星ケレスに到達して探査を行い、太陽系誕生のなぞに迫るデータを集める予定です。そして、ドーンはこのまま小惑星帯に永遠にとどまる初めての人工物となる予定です。


今週の無料番組


ヴォイニッチの科学書は株式会社オトバンクが発行するオーディオブック番組です。
定期購読はこちらからお申し込みいただけます
このサイトでは番組のあらすじを紹介しています。無料で閲覧できます。
※FeBe!で定期購読をしていただいている方には毎週、ここで紹介するあらすじよりもさらに紹介した配付資料をお届けしています。今週は特別に、通常は会員限定の配付資料をどなたでも無料でダウンロードしていただけます。>>253.pdf


バックナンバー
   
Chapter-265 伝統医学
Chapter-264 軌道エレベーターと宇宙太陽光発電 
Chapter-263 最近耳にしなくなったオゾンホールの現状と地球温暖化との関係
Chapter-262 金平糖のサイエンス 
Chapter-261 30分でわかるノーベル賞2009  
Chapter-260 リチウムイオン電池
Chapter-259 iPS細胞の応用研究
Chapter-258 月での水の存在
Chapter-257 早起き遺伝子と恐がり遺伝子
Chapter-256 グラフェン
Chapter-255 地球温暖化とちょこっと発電 
Chapter-254 水素から電子を取り出す新しい触媒の発見 
Chapter-253 水にも構造がある 
Chapter-252 食べものと体内時計の関係
Chapter-251 金縛りについて
Chapter-250 国際宇宙ステーション日本実験施設きぼう  
Chapter-249 脳神経科学の話題  
特別番組 山口県立山口図書館 ちょこっとサイエンス講座「宇宙人はなぜそのヘンを歩いていないのか?」 
Chapter-248 サリドマイドの生化学 
Chapter-247 太陽系外惑星探査の歴史と現状 
Chapter-246 氷核活性細菌
Chapter-245 一卵性双生児の最新科学 
Chapter-244 ダークマターとダークエナジー
Chapter-243 フローティングタッチディスプレイ
Chapter-242 トランスジェニックコモンマーモセット
Chapter-241 食感とおいしさの関係
Chapter-240 獲得形質の遺伝に似た現象
Chapter-239 マルチバースと人間原理
Chapter-238 マルチバース/ハッブル宇宙望遠鏡修理中
Chapter-237 近頃の恐竜の話題  
Chapter-236 レールガン実用化の歴史 
Chapter-235 ゴッホの絵画に隠されていた黒猫の発見
Chapter-234 バージェス頁岩発見から100年
Chapter-233 宇宙に吠える巨大モンスター
Chapter-232 産総研が開発したHRPシリーズの最新型ロボット
Chapter-231 他人の不幸は蜜の味
Chapter-230 最近の宇宙の話題
Chapter-229 ジョージ・ガモフの「不思議の国のトムキンス」 
Chapter-228 ヒラメとカレイの目の位置を決定する仕組み
Chapter-227 シャドーバイオスフィア 
Chapter-226 ジェットコースターの楽しみ方
Chapter-225 再び注目される超伝導
Chapter-224 ピンチになると活躍する遺伝子 
Chapter-223 アルツハイマー病に関する新たな発見

>> 「Mowton(放送終了)」はこちら

Science-Podcast.jp 制作






科学コミュニケーター 中西貴之(メール
アシスタント BJ

ヴォイニッチの科学書は
あなたの心に科学の火を灯します。

有料会員登録はこちらから


今週は有料会員の皆様は「図書館で科学」をダウンロードしてごらんいただけます。詳しくは添付の pdf 配付資料をご覧ください。「図書館で科学」は彦島図書館講演会で配布しているA4裏表に最新の科学の話題を濃縮した気軽な読み物です。

ご案内
ヴォイニッチの科学書ポッドキャストは有料コンテンツです
    ▼ダウンロードしていただくためにはオーディオブック配信国内最大手オトバンク社の「FeBe!」でお手続きをお願いいたします。月額525円です。
▼このページの閲覧は無料です。
インターネットラジオ局くりらじより配信中の「ちょきりこきりヴォイニッチ」は無料です。
お知らせ
まぐろぐヴォイニッチ
    お知らせなどはこちらに掲載しています。
twitter
    たいしたことはつぶやきません。


トップページ


本も書いてます



 このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。
 「ヴォイニッチの科学書」では毎週最新の科学情報をわかりやすく解説しています。番組コンセプトはこちらをご覧ください。>>クリック 

[この番組の担当は・・・]

ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

 


↓こちらもご利用下さい↓