2009年2月14日
Chapter-228 ヒラメとカレイの目の位置を決定する仕組み
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ヒラメとカレイは学術的にはどちらもカレイ目にまとめられる魚です。カレイ目に属する魚は体の左右の非対称性が著しく、「左ヒラメに右カレイ」といわれるように、ヒラメもカレイも両目が体の片方についており、体の色も右半分と左半分で異なっています。実は、ヒラメもカレイも生まれたばかりの小魚の時までは普通の魚と同様に体の両側に目があるのです。それが、変態期と呼ばれる仔魚中期になると成熟とともに眼球が顔の上を移動して体の片面に並びます。
ヒラメとカレイの非対称性は外見だけでなく、脳も左右非対称になっています。目と同様に生まれた直後の脳は左右対称ですが、外見が左右非対称になった段階で脳も同様に形が変わっているのです。目と脳の移動には時間差があり、まず脳が左右非対称に変化し、それを追うように目が移動を始めます。
動物の体が左右非対称であることは全く珍しいことではなく、私たち人間も心臓や小腸などの内臓、脳なども左右非対称となっています。ですが、顔の上を目が移動するなど、生育途中で外見が著しく左右非対称に変化する生物はカレイ目の生物以外には知られていません。
ヒラメとカレイでみられる左右非対称性の形成はノダル経路と呼ばれる複数の遺伝子の連鎖反応が胚の左側で発生することによって実行されることがわかっています。ヒラメの目が通常とは反対の右側に移動する異常が20%の確率で生じる血統について左右非対称形成の状況について調べてみると、このヒラメはノダル経路が左右ランダムに生じ、20%の確率でノダル経路が右側に生じていることがわかりました。
ところが、ノダル経路と目の関係について詳細に検討したところ、ノダル経路は、将来目になる細胞の左側で形成されるといった、直接的な関わり方をしていないらしいことがわかりました。
目の移動にどのような遺伝子が関係しているのかを調べた結果、pitx2と名付けられた遺伝子が深く関わっているらしいことがわかりました。間脳上部でのpitx2の挙動を調べたところ、胚の中で内臓の左右が決まった後にpitx2は機能を停止しますが、間脳上部においてのみ、あるタイミングで再び活動を始めることがわかりました。そのあるタイミングというのが目の移動開始数日前だったのです。正常のヒラメではpitx2が100%活動を再開するのに対し、普通の魚は胚の段階で1度だけpitx2が機能して内蔵の左右を決定した後は機能が停止し、このような2回目のpitx2の活動はありません。このことから、ヒラメの目の移動はpitx2遺伝子が脳で機能することがきっかけであり、これはカレイ・ヒラメの仲間が進化の過程で独自に獲得した機能であることがわかりました。
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