2008年6月28日 ノルウェー国内の北極圏の永久凍土の中に、植物の種子を保管することによって種の多様性を守ろうとする、植物版ノアの方舟、世界滅亡の日に備える地下貯蔵庫「スバールバル世界種子貯蔵庫」が造られました。 種子の搬入は2008年2月26日に始まり、今後4〜5年をかけて種子を収集。最終的には人間が日常的に栽培し食料としている150種類の作物のほとんど全ての品種の種子が集められる予定です。 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、植物種の25〜30%は22世紀末までに絶滅するか絶滅の危機に瀕するとされています。絶滅はすでに始まっていて、今も毎日が絶滅の日々といっても良い状況で、種子の収集は一刻を争う状態になっています。 ノルウェー政府が約9億円をかけて建設したこの貯蔵庫は、内部は種子の貯蔵に最適な-18度に冷やされています。貯蔵庫がスバールバル諸島に作られたのは貯蔵庫を永久凍土の中に設けることによって、予想外の事態が将来起きても外界から隔離されて低温状態が保たれると考えたからです。標高も高いため、今後地球温暖化によって海水面が上昇しても水没することはなく、各国の政府や農業関係機関が管理している世界に1400カ所程度ある種子貯蔵庫が停電、洪水、戦争などの予期しない出来事に遭遇して破壊されても予備の保管庫の役目を果たすことが期待できます。このことが「世界滅亡の日のための貯蔵庫」と呼ばれる理由です。 一方、多様性減少の問題は家畜においても大きな問題となっています。2007年の時点で国連食糧農業機関(FAO)に記録されている家畜の在来品種は7600種ありますが、そのうちの9%は実はすでに絶滅しており、20%は絶滅のおそれがあるとされています。 人間が飼育しているはずの家畜が絶滅する理由はより生産性の高い家畜が開発された場合それ以前の種とくにその地域の在来種が放棄されてしまう点にあります。たとえば、乳牛の一種ホルスタインは非常に優れた種ですので、世界120カ国に10億頭いるとされていますが、10億頭の先祖をたどればわずか数十頭の雄牛にたどり着きます。つまり、ある特定の気候風土の地で開発された牛が世界中で、それぞれの地域の気候風土を無視して飼育されているということで、気候への適応能力や病気への抵抗性に問題があると考えられています。そのため、将来、地球の気候変動によってホルスタインが絶滅しそうになったとき、その時代の気候に適応できる在来種を復活させる必要がありますが、スバールバルのような貯蔵庫の動物バージョンを作ることは非常に困難です。 というのも、植物の種子は冷凍を経験しても普通に発芽しますが、動物の精子や卵子、受精後の胚などは非常にデリケートで冷凍にほとんど耐えることができません。しかも、植物ならばとりあえず氷点下にしておけばどのような植物の種もある程度保存できますが、動物の場合には最適の冷凍保存条件があります。今のところ、冷凍状態から子供を作り出すことに成功しているのはある特定の実験用品種の牛くらいのものです。 作物の場合でもスバールバルとイギリスのキュー王立植物園だけで網羅できる作物種は限られていることもわかっており、激変を始めた地球環境の中で生物種の多様性を守ることは容易なことではないようです。 今週のエンディングの雑談は他局の科学番組情報・・・ 京セラ近未来ストーリー中川翔子のギザサイエンス、放送局が増えました。 サイエンスチャンネルのオススメ番組は「サイエンスオデッセイ 地球探求の旅」 サイエンスゼロ
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