2008年3月29日
Chapter-196 干からびた生物が元どおりに生き返るメカニズムを物質科学の手法で解明
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酵母やクマムシなど極度の乾燥に耐える生物がいます。アフリカ中部に生息する血を吸わない蚊の仲間、ネムリユスリカの幼虫もほぼ完全に脱水しても死なずに、乾燥に耐えることができます。脱水状態ではすべての生命維持活動は停止しており、あたかも物質のような状態になっていますので、これらの生物は生物と物質の間を行ったり来たりできると言えます。これまでの研究で、ネムリユスリカの幼虫は、乾燥した環境に置かれると、失われていく水に代わってトレハロースという糖を体内に大量に蓄積することが分かっていました。
これらの生物が乾燥に耐えられるのは細胞から水が失われるのに伴い、水の代わりにトレハロースが細胞膜やタンパク質などの生体物質と結合し、トレハロースがガラス状に固まってこれら生体物質を包み込むことにより生体物質の構造が壊れることを防ぐためであろうと考えられています。
東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターと農業生物資源研究所の共同研究チームは、これを作業仮説として、物質科学の手法により解析を試み、その結果、生物の乾燥耐性メカニズムを解き明かすことに世界で初めて成功しました。
ネムリユスリカ幼虫を
(1)ゆっくり乾燥させて体内にトレハロースを蓄積させる
(2)速やかに乾燥させてトレハロースを蓄積させない
の2通りに乾燥させ、両者の性質を比較したところ、水に戻すことによって(1)は蘇生しましたが、(2)は蘇生しませんでした。(1)は体内にまんべんなくトレハロースが分布しており、そのトレハロースは水の代替物質として細胞等を保護する役割を果たしていることが原因であることが確認されました。その結果、乾燥した状態にあるにも関わらず、(1)の細胞膜は通常の生命活動状態のときと同様に、流動性の高い状態に保たれていることも分かりました。
以上のように、トレハロースという水の代替物質を利用して動物(昆虫)が乾燥をしのぐ物理的な仕組みが世界で初めて明らかにされました。
参考資料
東京工業大学と独立行政法人 農業生物資源研究所の共同研究で、2008年3月25日にプレス発表
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1965年生まれ
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