2008年1月19日
Chapter-188 日本人が発明した垂直磁気記録
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カセットテープ、フロッピーディスク、カセットテープ、キャッシュカード。これらの磁気メディアは磁気テープやディスクに塗られた磁石が記録の保持をしています。
従来の方式はリング型ヘッドと呼ばれる「C」の字型のヘッドに電流を流すことによってN、Sの磁極を作り、テープなどに塗られた磁性体をなぞって小さな磁石を作って記録します。、この方法はテープの進行方向にNとSが並びます。当初はこの水平方向に磁石を並べる記録方式のまま記録密度を上げる研究をしていました。ある時、高密度記録したテープの中では小さな磁石がどのように並んでいるのだろうかということを疑問に思い、テープの断面での磁石の配列を調べたところ、低い密度ではテープの進行方向に寝そべるように並んでいた磁石が、高密度記録は縦方向の渦巻きのような不思議な形に並んでいることに気づきました。
研究者らは、この渦巻き状の磁力線を見て、テープの中で磁石が縦になっているのなら、もともと縦に並んだ磁石を記録に使えればより高密度に記録ができるのではないかと考えました。試作品が始めて完成したのが1979年のことで、この時に開発されたハードディスクはディスクもヘッドもむき出しのレコードプレーヤーのような形でした。この第一号機は非常に良好な結果を残し、その後の研究の進展に大きく寄与しました。磁気ディスクの記録密度を上げる方法としては、1個の磁石を極限まで小さくし、微弱な磁力に反応する高性能なヘッドと微弱な磁力を内部に閉じこめない非常に薄いディスクを採用することによって実現することも可能です。ただし、記録媒体を薄くすると熱揺らぎによって記録内容が消える問題が発生し、ディスクの薄さには限界があり、記録密度向上には限界がありました。
垂直磁気記録方式は、記録密度が高められるだけでなく、磁性体の中に作り出された磁石同士が自らくっつく性質があるため非常に安定しており、ディスクを薄くする必要もないので信頼性も高く、しかも、従来の方式よりも工場での歩留まりが高いということもわかり、何ら欠点の見あたらない日本発の技術として世界に普及しています。
垂直磁気記録方式は日本語の学術雑誌に様々な技術が発表され、日本のお家芸として進展しましたが、このことについて、1984年に、アメリカの電子・電気技術の学会、The
Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc. (IEEE)がアメリカの上院でこのように証言をしています。
「日本では、非常に多くの研究成果が日本語の雑誌だけで出版されている。西側諸国はこれらの非常に重要な研究成果から遮断されている。ソ連が始めてスプートニクを打ち上げたときに、アメリカではソ連の物理学会雑誌の翻訳を始めた。同じように日本語の学術雑誌を翻訳すべきである」
非常に重要な論文がありながら「日本語なので読めない、その間にもさらに後れをとってしまう」とやきもきする海外の技術者の姿が目に浮かぶサイドストーリーでした。
参考資料:
応用物理 2008年1月号(東北工業大学岩崎教授)
東芝プレスリリース
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2004_12/pr_j1401.htm
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2005_05/pr_j1601.htm