2008年7月5日
Chapter-206 サイエンスニュースフラッシュ 2008年6月号

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北極の氷は今年の夏には完全に融けてしまうかも

アメリカ・コロラド大学のマーク・サーレズ教授の調査によると、今年の夏はついに北極海の氷が無くなってしまいそうです。
 北極周辺の海は、これまで夏になっても融けない半永久的な氷によって閉ざされていましたが、近年の地球温暖化の影響によって溶け始めています。
 北極海の氷が溶けることによって発生する問題はたくさんあります。
 地球の気候は太陽から受け取るエネルギーと、地球が放出するエネルギーのバランスで決まりますが、北極の氷は太陽のエネルギーを反射して地球を冷やす効果があります。さらに、海水温度の上昇を防ぐ作用も持っていますので、北極海の氷が減少すると、地球の熱収支が崩れ、地球温暖化を加速させたり、地球全体の海水の循環に影響を与える可能性があります。
 また、北極で生活しているホッキョクグマはもちろん、環境の変化や食物連鎖の変化によって地球規模で人間も含め多くの生物が絶滅する可能性があります。北極海沿岸で生活している人にとってはすでに、狩猟ができなくなる、沿岸の氷が無くなることによって陸地の浸食が進行し暮らしていた村が無くなるなどの影響が出ています。
 一方で、北極海の氷が無くなることによる海底資源の開発が活発化していますが、これらは化石燃料の増産による二酸化炭素排出量の増大を導き、化石燃料を得るメリットよりもリスクの方がはるかに大きく、自ら地球を破滅に導く行為でしかありません。


凍土に眠る遺跡、消失危機

 地球温暖化によって破壊されるのは北極の環境だけではありません。温暖化によって古代遺跡が破壊されることもあります。
 「アルタイの王妃」と呼ばれる美しさで有名なミイラがあります。このミイラはロシア南部アルタイ共和国の永久凍土から発掘された約2500年前の女性で、推定年齢30歳、身長175センチで、腕にシカの絵柄の入れ墨をし、黄金の服飾品や馬と共に埋葬されていました。「アルタイの王妃」が見つかったのは1993年夏のことで、標高約2500メートルにある古墳は埋葬後すぐに凍結したものと思われています。その結果、腐敗することもなく、また、泥棒による盗掘も免れてミイラは非常に美しい状態を保って眠っていました。
ところが、地球温暖化によってこの地域の環境が変化し古墳がダメージを受け始めています。ここでは気温が過去100年で1〜2度上昇し、21世紀半ばには永久凍土が解け出し、消失の危機にさらされる」と警告しています。

1つの恒星に、3つの「巨大地球」

ヨーロッパの研究チームがヨーロッパ南天天文台のラ・シーヤ天文台3.6メートル望遠鏡を使って質量が地球の数倍程度の系外惑星を相次いで発見しました。その中でも特に珍しいのは、地球から42光年離れた場所にある1つの恒星に3つの岩石型惑星が同時に発見されたことです。
質量が地球の数倍程度の小さな惑星は、「スーパー・アース」と呼ばれています。今回報告された太陽系外惑星系では3つのスーパー・アースが、1つの恒星のまわりを回っており、このような観測結果は、これまで発表されたことの無かった画期的な観測成果です。
これらのスーパー・アースはいずれも質量が地球の数倍で地球と似ていますが、その公転軌道は太陽系で言えば最も内側を回っている水星よりもさらに内側の軌道を回る灼熱の惑星です。
今回の発見により、太陽系のような複数の岩石型惑星やガス惑星が一つの恒星の周囲に存在する惑星系は珍しいものではなく、また、恒星のすぐ近くを公転する地球型惑星が見つかったことから、宇宙にはいまだ検出できない地球型惑星が多数潜んでいる可能性が高いことが示されました。


人工ブラックホール実験は本当に安全か?

一昨年、技術評論社から出しました「最新科学おもしろ雑学帳」の項目番号8番に、ヨーロッパでまもなく完成する大型円形加速器「LHC」を使って人工的にブラックホールを造り出し、その性質を解明しようとする研究が行われる予定だと書きました。拙著の中では、研究者が「LHCでブラックホールを造ってもそこに地球が吸い込まれる心配はない」と言っていることを紹介しつつ、「さて、どうなりますでしょうか」と思わせぶりなことを書きましたが、あれから2年近くたちました。LHCが今年の秋稼働することが決まって、人工ブラックホール実験がいよいよ間近に迫ったのを受け、ノーベル賞受賞学者らが「地球がのみ込まれる危険は絶対にありません」という安全宣言を出したということです。
 LHCは地下トンネルに作られた1周27キロの加速器です。今回行われる実験は、陽子を光の速度とほぼ同じ速度まで加速し、陽子同士を正面衝突させます。この衝突によって理論計算によると、小さな人工ブラックホールができるとされています。
 ブラックホールを地上で造ることに対する懸念が市民の間に広がっていることを受け、LHCを開発・運用する欧州合同原子核研究機関が、ノーベル物理学賞受賞者らでつくる委員会に「安全審査」を依頼していたのだそうです。
 報告書では、
(1) 理論物理学者ホーキング博士によれば、ブラックホールはエネルギーを放射しながら縮んでいくと考えられ、たとえブラックホールができても、すぐに消滅してしまうこと、また、
(2) 地球にはLHCで作られる以上の高エネルギーの粒子(宇宙線)が頻繁に衝突していることがわかっていて、その時にミニブラックホールが生じている可能性があります。けれど、今のところ地球がのみ込まれたりしていないこと、などを根拠に、「実験は安全」と結論づけているということです。


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今週発行の第101号の話題は・・・・
 ・北極の氷は今年の夏には完全に融けてしまうかも
 ・凍土に眠る遺跡、消失危機
 ・1つの恒星に、3つの「巨大地球」
 ・地球上で人工的にブラックホールを造ると・・・・
 ・人工ブラックホール、地球は無事か 学者「心配ご無用」
 ・iPS細胞、作製効率100倍に 米教授がマウスで成功
 ・片目で奥行きを認識できる仕組み
 ・雨を作る細菌

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バックナンバー
   
Chapter-205 植物のノアの方舟 
Chapter-204 iPS細胞が世界を動かす
Chapter-203 サイエンスニュースフラッシュ 2008年5月号
Chapter-202 医学の歴史上最も珍しい10の疾患 
Chapter-201 宇宙の話題を盛り合わせ
Chapter-200 PQQってなに?
Chapter-199 人類は7万年前に絶滅寸前の状態に追い込まれれていた
Chapter-198 サイエンスニュースフラッシュ 2008年4月号
Chapter-197 日焼け止めがサンゴの白化を促すことがわかった
Chapter-196 干からびた生物が元どおりに生き返るメカニズムを解明
Chapter-195 国際宇宙ステーションと「きぼう」
Chapter-194 サイエンスニュースフラッシュ 2008年2月 
Chapter-193 水星探査機ビーナスエクスプレス 
Chapter-192 脳機能に関する最新研究 
Chapter-191 サイエンスニュースフラッシュ 2008年1月
Chapter-190 超弦理論でブラックホール内部の構造が明らかになった
Chapter-189 ブラックカーボンと地球温暖化
Chapter-188 日本人が発明した垂直磁気記録
Chapter-187 サイエンスニュースフラッシュ 2007年12月
Chapter-186 お正月番外編「人を助ける へんな細菌すごい細菌」
Chapter-185 2007年に紹介した話題・その後
Chapter-184 脳機能に関するふたつの最新研究
Chapter-183 サイエンスアゴラ2007を振り返る
Chapter-182 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
Chapter-181 光が空間を伝わる様子を3次元の動画として記録・観察に世界で初めて成功 
Chapter-180 サイエンスニュースフラッシュ 2007年10月 


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        iPS細胞ってなんですか?
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    何がスゴイか? 万能細胞 (技術評論社)
     
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[この番組の担当は・・・]

ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
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