2008年7月12日
Chapter-207 波力発電の現状

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 化石燃料に頼らない発電方法はいくつかありますが、海に囲まれた日本にとって有利な方法の一つに海の波を利用した波力発電があります。
 小型の波力発電装置はすでに、航路標識ブイの電源として世界中で広く使用されていますが、これらの発電量は100ワット程度です。今回話題となりますのは、数百キロワット以上の出力を持つより大型の波力発電施設です。

 波力発電は世界的に見ても利用できる地域が限られているため、風力や太陽光ほど一般的ではありませんが、世界中の波が持つエネルギーは莫大で、そのごく一部を利用しただけでも、現在の世界中の風力発電の合計と遜色ない電力を取り出せるからです。

 このことからもわかるように技術的には波力発電は風力発電よりはるかに難易度が高く、実用化も遅れていると言えます。けれど、波力発電ならではのメリットもあります。

 最大のメリットは、風力発電のエネルギー源である空気と、波力発電のエネルギー源である水を比べると水の方が800倍も密度がある点にあります。つまり、発電機をより力強く駆動することができるということです。

 波の持つエネルギーは波の高さの2乗に比例し、周期に比例します。日本の港湾空港技術研究所の試算では、波の高さが1mで周期が10秒であれば、約5 kW/m、波の高さが5mになれば、高さの2乗に比例し約125 kW/mのパワーを持つとされています。実際には不可能ですが日本に押し寄せる波をすべて発電に利用できたとすると、3500万kWとなり、日本の総発電量の約1/3をまかなうことができます。

 現在の波力発電は主に6種類の発電方法があり、今後、さらに実用化研究が進めば、これらの中の最も発電効率の良いものに方法は収束していくだろうと考えられています。
 それら6つの方法とは、
(1) 2枚のウキを自由に動く関節で連結し、ウキが波に合わせて屈曲する運動で発電する減衰型
(2) トイレタンクの水面センサーのようなウキの上下運動からエネルギーを吸収する点吸収型
(3) 振り子時計の振り子を海中に上下逆さまにして立てたような装置を使い、水の圧力で振り子が揺さぶられることを利用した振り子式波力変換型
(4) 波を細い筒の中に導き、筒の中を往復運動する水の動きを空気の加圧と減圧に変換してタービンを回す振動水柱型
(5) 排水路に羽根車を設置した貯水槽で波を受け止め、海水の上から下への流れを作り出し発電する越波型
(6) 水中に沈めたブロックが波から受ける圧力変化を利用する没水圧力差型
です。

 デンマークは比較的、波力発電の研究が進んでいる国で海水で直接タービンを回転させる「ウェーブ・ドラゴン」という愛称の発電施設も稼働しています。ウェーブ・ドラゴンはその名の通り、体をくねらせる大蛇のような外観で、相当不気味な構造物ですが、2万時間の稼働実績があります。ただし、ウェーブ・ドラゴンも含め、発電装置を海中に設置する方式は水漏れや腐食、海洋生物によるトラブルなどが発生しており、これらへの対応策が重要です。実際に、波力発電に成功しても、暴風雨によって施設を破壊され波力発電から撤退した電力会社も数多くあります。

 ただし、多くの研究者は波力発電施設の耐久性について問題を解決するのは容易だと考えています。研究者らが問題にしているのはコストです。風力発電のコストは1キロワットあたり、わずか4円です。一方、波力発電は将来実用化された時点でも1キロワットあたり30円〜100円と見積もられており、太陽光発電の20円よりもコストがかさみます。さらに、量産などによるコストダウンが実現しても1キロワットあたり10円を切ることは難しいという試みの計算があります。

 にもかかわらず波力発電の研究は盛んです。というのも、例えばEUは2020年までに全発電量のうちの20%を自然のエネルギーを利用した発電に切り替えることを目標としていますし、アメリカ・カリフォルニア州では33%を目標としています。これだけの高い目標をクリアするためには、あらゆる発電方法を利用しなければならないと考えられているためです。カリフォルニア州では電力会社のパシフィック・ガス & エレクトリック社がカリフォルニア州北部の沖合に巨大な波力発電試験施設を建設する計画を持っていますし、EUでは電力会社による波力発電ベンチャーの買収なども行われています。


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[この番組の担当は・・・]

ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

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