2008年7月26日 ナメクジウオゲノムの解析により脊椎動物の起源が明らかになりました。 ナメクジウオという名前の生物がいます。特に珍しい生き物ではなく、日本も含め、世界中の温かくて浅い海の砂の中にいます。この生物のポイントは脊椎動物の最も原始的な祖先であるという点です。脊椎動物とは、人間や鳥、魚のように背骨が通っている動物です。ただし、ナメクジウオは人間のような脊椎動物ではなく、脊索動物と呼ばれています。脊椎動物は脊索動物の仲間に含まれるのですが、その違いは、ナメクジウオには人間のような背骨が無く、筋肉が背骨の役目をしているという点です。 ナメクジウオ、体長3〜5センチ程度で色は薄いピンク色で半透明、尾ひれがついていますが、胸びれや背びれはありません。感覚器官として眼点と呼ばれる光を感じるセンサーを備えていますが、明るいか暗いか程度しかわかりません。体内に血管が張り巡らされていますが心臓はなく、一部の血管が脈動することで血液を循環させています。魚で言うエラに相当する臓器がナメクジウオでは体の前半部にある鰓裂(さいれつ)と呼ばれる構造です。鰓裂は、水中の酸素を取り込むと同時に、植物プランクトンなどの食物を濾(こ)しとる役割も果たしています。脊索に沿って神経の束が通っていますが、脳はないとされています。 日本では、房総半島から九州までの太平洋岸と瀬戸内海、日本海側は丹後半島より南に分布しています。ただし、日本では環境の変化のために生息数が激減しているといわれています。泳ぎは上手ですが、通常は海底の砂のなかに潜って生活しています。 日本ではナメクジウオは食べませんが、中国では食材として利用され肉や卵と炒めたりするそうですが、中国でも環境の変化によりなかなかとれなくなったため食べなくなっているようです。 ナメクジウオのゲノムは2007年にすでに解読されていましたが、今回、京都大学を中心とした世界5カ国、18研究機関の共同研究チームがナメクジウオのゲノムを多くのその他の生物のゲノムと比較し、ナメクジウオは脊椎動物の起源となる生物であることを明らかにしました。これまで、脊椎動物の祖先についてはナメクジウオの仲間であるという説と、最初に現れたのがホヤの仲間で、ナメクジウオはそこからさらに進化した脊索動物であるという説があり、いずれの説にも決定的な証拠は見つかっていない状態でした。今回の研究で、脊索動物の進化の大まかな流れは、まだ見つかっていない脊索動物の根源的な生物から、現在の脊椎動物へとつながるナメクジウオの祖先が誕生し、その後、ホヤの祖先が分岐した後に、ナメクジウオの祖先から魚類への進化が始まった、ということになります。 さらに、遺伝子の並び方の解析結果によると、ナメクジウオゲノムの任意の並び方が脊椎動物ゲノム内では4カ所ずつ見つかることが多いことがわかりました。このことは、脊椎動物の遺伝子は過去に、ゲノムレベルでの重複と呼ばれる、ゲノムが2倍にダブってしまうビッグイベントが2回おこったことを示しています。2回の全ゲノム重複によって脊椎動物の祖先のゲノムが作られたことが、脊椎動物の特徴、つまり、骨格形成、精密な神経系、複雑な内分泌系などの構築をもたらした可能性があります。このことが、脊椎動物が地球上で繁栄することができた理由の一つであると考えられています。
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