2008年12月27日
Chapter-223 アルツハイマー病に関する新たな発見
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歳をとると健康な人でも脳の中では「GABA抑制」と呼ばれる神経活動の低下が起きることが知られています。一方、独立行政法人理化学研究所がアルツハイマー病とそっくりな状態を作り出したマウスの脳を調べたところ、アルツハイマー病マウスの脳ではGABA抑制が、正常ではあり得ないほど起きていることを発見しました。このマウスは記憶力の低下を生じていましたが、GABA抑制を防ぐ薬を投与したところ、記憶障害が改善することが確認されたことから、アルツハイマー病における記憶障害とGABA抑制が関係していることが示唆されました。
アルツハイマー病患者の脳には、βアミロイドタンパク質と呼ばれる特殊なタンパク質が集まってできたかたまりが生じており、これを老人斑と言います。遺伝性のアルツハイマー病患者では、若い頃に老人斑が発生し、記憶障害が起こります。
一方、大多数を占める非遺伝性のアルツハイマー病は、老年期に発症することから、老化とアルツハイマー病も切っても切れない関係にあるようです。
ところが、βアミロイドと老化、2つの因子がどのように複合的にアルツハイマー病に関係しているかははっきりしていませんでした。そこで、研究チームは2つの要因を別々に検討するため、若いにもかかわらずβアミロイドが大量に生じているマウスと健康に歳を取ったマウスの2種類のマウスを用意し、それぞれを、健康で若いマウスと比較しました。
その結果、βアミロイドが生じている若いマウスも、健康な老人マウスも両方とも、正常な若いマウスに比べて記憶能力が低下していることがわかりました。この記憶低下の原因を明らかにするため、記憶の形成をつかさどる海馬において、記憶に関わる神経細胞の活動について調べました。その結果、若いβアミロイドマウスと老人マウスでは、いずれもGABA抑制が著しく進行していることがわかりました。
これらのことから、GABA抑制の異常な促進による神経同士の情報伝達の異常が、βアミロイド、並びに、老化による記憶障害における共通の発症機構であると考えられます。今回の成果は、GABA抑制機構を制御することで、記憶障害を改善する、新たなアルツハイマー病の治療薬・・・場合によっては、正常な老人においても生じる記憶力の減退を改善するすごい薬を開発することが可能であることを示唆する研究成果です。
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