2008年11月1日 2008年のノーベル物理学賞は宇宙がなぜ現在のような物質や質量のある姿をしているのか、という根源的な部分を解明しようとする「対称性」という考え方に対する研究3件に贈られることが決まりました。3人の研究者はいずれも日本出身で米シカゴ大学の南部陽一郎名誉教授、日本学術振興会の小林誠理事、京都産業大学の益川敏英教授の三氏です。 私たちの体や惑星、太陽など宇宙に存在するあらゆるものを構成する原子は、陽子と中性子からなる原子核と、原子核の周辺を雲のように取り囲む電子でできています。原子核の中の陽子はプラス、電子はマイナスの電気を持っています。一方で、これらのプラスマイナスが逆になったものも存在していることがわかっています。つまり、マイナスの陽子、これを反陽子といいます。そして、陽電子と呼ぶプラスの電子が存在し、これらによって作られた原子が存在するのです。私たちの宇宙を構成する非常に小さな成分を粒子と呼ぶならば、そのような電気が逆の原子でできたものは反粒子と呼ばれることになります。 対称性を磁石でイメージしてみましょう。 丸いテーブルの上に無数の小さな磁石が転がっている状態を想像してください。この磁石が外部の磁石の影響を受けずに好き勝手な方向を向いて転がっているときにこのテーブルを遠目にぼんやりと見ると、テーブルをどの方向から見ても何となく同じに見えるはずです。これが対称性がある状態です。このテーブルの近くに超強力な磁石がやってくると、テーブルの上の無数の磁石はみなNとSがそろって同じ方向を向きます。そうすると、テーブルをどちらの方向から見るかによって、テーブルの上の磁石は自分に対して違った向きに見えます。この状態が対称性が破れた状態です。 宇宙は137億年前に無から誕生しました。この時、粒子と反粒子は同じ数が作り出されました。にもかかわらず、今の宇宙は粒子ばかりです。反粒子は加速器という巨大な実験装置によって人工的に作り出さない限り見つかりません。粒子と反粒子が衝突すると光になって消滅することがわかっています。粒子と反粒子の性質が本当に全く同じならば、すべての粒子は光に変換され、今のような粒子の世界はできなかったはずです。にもかかわらず、なぜこの宇宙は粒子だけに満たされているのでしょうか? そのような理論に従って宇宙誕生直後から物質の元ができるまでを簡単に紹介すると次のようになります。 宇宙は約137億年前に誕生しました。この年代はすでにNASAの人工衛星COBEやWMAPによって宇宙マイクロ波背景放射を観測することによって正確に計算されています。宇宙は無から、急激な膨張期間であるインフレーションを経て、ビッグバンという大爆発で誕生しました。宇宙誕生直後、膨大な数の粒子と反粒子のペアが生まれ、自由に飛び回っていました。この時はまだ、宇宙は対称性の破れが全くない均一な世界だったと考えられています。その後、双子は触れ合うと光を出して次々に消滅し、どんどん数を減らし、宇宙創生の1000億分の1秒後には反粒子はほぼなくなってしまいました。この時、10億分の1というごくわずかな確率で粒子が残り、この粒子が現在の宇宙を構成するあらゆる物質になったのです。その仕組みは、粒子と反粒子にはごくわずかな寿命の違いがあり、粒子だけが生き残ったということで説明が付きます。つまり、私たち人間も対称性の破れがあったからこそ今ここにこうして存在していることになります。
|
Science-Podcast.jp
制作
このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 [この番組の担当は・・・] [他局の科学番組] |