2008年11月8日 2008年、イグ・ノーベル賞の「認知科学」を日本人研究者が受賞しました。受賞したのは、中垣俊之・北海道大学大学院准教授、小林亮・広島大学大学院教授、石黒章夫・東北大学大学院教授、手老篤史・科学技術振興機構さきがけ研究者、山田裕康・名古屋大学客員研究員とハンガリーの研究者です。中垣准教授らは、粘菌を入り口と出口だけに餌がある迷路に置くと、いったんアメーバのように迷路いっぱいに広がった粘菌が餌のない場所からは撤退し、餌のあるところだけを最短距離で結ぶ太い管状になることを確かめました。 粘菌は単細胞ですが生育条件に恵まれると数十センチ、場合によると数メートルの膜状にまで成長します。しかも光などの外部の情報を感じ取って姿を劇的に変化させて動き回ることができます。粘菌細胞の中には細かく枝分かれした管状のネットワークが観察されます。この管の中を原形質つまり、タンパク質を含む細胞質が高速で大量に移動し、摂取した栄養分はこの管を通じて広大な細胞内に行き渡ります。この管は必要に応じて伸びる方向や太さを様々に変えることができます。管の形が変わると細胞の変形となって粘菌は移動します。粘菌には脳も神経系もありませんが、この移動は目的を持っており、粘菌にとって不適切な環境から逃れたり、エサの多い環境を求めて移動したりします。 この粘菌をトランジスタとして使って粘菌コンピューターを作ろうというアイディアはたくさんあるのですが、今週紹介しますのは日本の理化学研究所が開発した世界最低速の計算機です。この計算機には粘菌が使用されていて、計算速度が遅いだけではなくて、ときどき計算間違えるのが特長という計算機です。ただ、この粘菌計算機には人間の脳のように情報を処理する未来のバイオコンピューターの基礎研究になるのだそうです。 粘菌計算機のおもしろい点はその解き方にあります。コンピューターは最適の解に向かって一気に計算を行い、解が求められればそれで処理は終了となります。 ところが粘菌計算機は細胞の伸び縮みで答えを出すのですが、その特徴は一度答えが得られても、次には答えをご破算にし、別の答えを探し始める点にあります。この点で粘菌の思考回路は人間に非常によく似ています。つまり「だいたいこんなもんでしょう」という答えを出すことができるのです。このように、スーパーコンピューターの苦手とする「最適な答えかどうかわからないけどだいたいこんな感じ」という答えを瞬時に算出する能力は生物特有のものです。これが粘菌計算機がバイオコンピューターにつながると言われる所以です。 参考:Chapter-166 粘菌問題
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