2008年11月22日
Chapter-219 絶滅動物を復活させる新技術

前回の放送トップページ次回の放送

 独立行政法人理化学研究所が16年間冷凍保存のマウス死体からクローンを作り出すことに成功したと発表しました。

 これまでにも、シベリアの永久凍土で発見されるマンモスなどの絶滅動物を、クローン技術で復活させようとするアイデアはありましたが、発掘された組織の細胞はすべて死んでいます。死んだ細胞を使って従来の手法で細胞融合を行っても、細胞をつつむ細胞膜が崩れたり、細胞の核が破損していたりして、きちんと細胞膜で包まれた新しい生きた細胞を作り出すことができませんでした。

 研究チームは、永久凍土の温度に近いマイナス20度で最長16年間保存されていたマウスを用いて、細胞から核を取り出す方法などに工夫を凝らした新しい核移植技術を開発し、凍結死体から正常なクローンマウスを作出することに成功しました。

 核を取り出す体細胞は脳、心臓、腎臓、血液など11種類の臓器が試みられましたが、脳細胞の核から作られたクローン胚の発生が最も高いことが分かったということです。これまで、脳細胞からクローンの作成に成功した例はなく、脳はクローン作出に最も適さない臓器と思われていたにもかかわらず、約40%の成功率だったということです。2番目によかったのは、発生率は半分以下に落ちるものの、血液中の細胞でした。血液は、体中すべての組織から得ることができるため、永久凍土から発見される組織がどこであれ、利用できることを示しています。

今回、研究者らは2種類のクローン作成方法を試みて、そのうち片方は失敗しています。うまくいかなかったのは、もっともシンプルなクローン作成方法である、細胞融合させた細胞を培養した後に借り腹メスの卵管内移植する方法で、1週間および1カ月間冷凍保存しておいた脳細胞からはクローンマウスが誕生しましたが、16年間冷凍保存されていたマウスの脳細胞からは誕生させることはできませんでした。

一方、クローンを作成する際に、いったんクローンES細胞を樹立し、それをもう一度核移植するとクローン個体の成功率が改善することがわかっています。そこで、クローン胚の一部からクローンES細胞の樹立を試みましたところ、16年間冷凍されていた凍結死体の脳細胞から、クローンES細胞の樹立に成功しました。
参考:「からだビックリ!薬はこうしてやっと効く」66ページ

 このクローンES細胞を用いてもう一度核移植実験を行った結果、ドナーマウスの冷凍保存期間や種類に関係なく、いずれの条件からもクローンマウスの出産率が改善され、16年間冷凍保存されていた凍結死体からも、合計4匹のクローンマウスが生まれました。この4匹のクローンマウスは、ドナーマウスとDNA、性別、毛色が完全に一致しており、クローンであることが確認されました。クローンマウスは正常に発育し、子孫を残すことにも成功しています。


ヴォイニッチの書棚
31冊目 「化学物質はなぜ嫌われるのか」
技術評論社 知りたいサイエンスシリーズ 佐藤健太郎

 中国産の餃子で確認されたような、健康に悪影響を及ぼすほどの農薬混入は、確かに大問題ですが、日本人はこの問題にあまりに敏感になりすぎています。たとえば、メラミンのような、本来食品に使われるはずのない、安全性の基準がよくわかっていない物質の混入は、問題かもしれません。けれど、科学者によって安全性が確認され、食品に使うことが許されている物質でさえ、わずかに混入していただけで大騒ぎになってしまうのは、過剰反応ではないでしょうか?
「化学物質はなぜ嫌われるのか」をAmazonで購入する


※番組時間内にご紹介できなかったより詳しい解説と、その他の最新科学情報は有料メールマガジンまぐまぐプレミアムで配布中です。

今週発行の第113号の話題は・・・・
 ・サイエンスニュースフラッシュ2008年9月号詳細
 ・超新星でのレアメタル生成
 ・ブラックホールは銀河を飲み込めない
 ・編集後記

※まぐまぐプレミアム購読料は番組制作費・サーバー維持費として使用させていただいています。
バックナンバー目次はこちら 


バックナンバー
   
Chapter-218 粘菌問題再び
Chapter-217 2008年 ノーベル物理学賞
Chapter-216 2008年 ノーベル生理学・医学賞 
Chapter-215 サイエンスニュースフラッシュ 2008年9月号
Chapter-214 地熱発電の可能性
Chapter-213 夜行雲 / 天の川銀河で発見された新たな構造
Chapter-212 iPS細胞の応用
Chapter-211 長期記憶形成のメカニズムがわかり始めた
Chapter-210 サイエンスニュースフラッシュ 2008年7月 
Chapter-209 太陽電池飛行機
Chapter-208 ナメクジウオ!! 
Chapter-207 波力発電の現状
Chapter-206 サイエンスニュースフラッシュ 2008年6月号 
Chapter-205 植物のノアの方舟 
Chapter-204 iPS細胞が世界を動かす
Chapter-203 サイエンスニュースフラッシュ 2008年5月号
Chapter-202 医学の歴史上最も珍しい10の疾患 
Chapter-201 宇宙の話題を盛り合わせ
Chapter-200 PQQってなに?
Chapter-199 人類は7万年前に絶滅寸前の状態に追い込まれれていた
Chapter-198 サイエンスニュースフラッシュ 2008年4月号
Chapter-197 日焼け止めがサンゴの白化を促すことがわかった
Chapter-196 干からびた生物が元どおりに生き返るメカニズムを解明
Chapter-195 国際宇宙ステーションと「きぼう」
Chapter-194 サイエンスニュースフラッシュ 2008年2月 
Chapter-193 水星探査機ビーナスエクスプレス 
Chapter-192 脳機能に関する最新研究 
Chapter-191 サイエンスニュースフラッシュ 2008年1月
Chapter-190 超弦理論でブラックホール内部の構造が明らかになった
Chapter-189 ブラックカーボンと地球温暖化
Chapter-188 日本人が発明した垂直磁気記録
Chapter-187 サイエンスニュースフラッシュ 2007年12月
Chapter-186 お正月番外編「人を助ける へんな細菌すごい細菌」
Chapter-185 2007年に紹介した話題・その後
Chapter-184 脳機能に関するふたつの最新研究
Chapter-183 サイエンスアゴラ2007を振り返る
Chapter-182 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
Chapter-181 光が空間を伝わる様子を3次元の動画として記録・観察に世界で初めて成功 
Chapter-180 サイエンスニュースフラッシュ 2007年10月 


>> 「Mowton(放送終了)」はこちら

Science-Podcast.jp 制作

ライブ & MP3オンデマンド & ポッドキャスト
世界初の日本語科学情報 PODCAST 番組



科学コミュニケーター 中西貴之(メール
アシスタント BJ

ヴォイニッチの科学書は
あなたの心に科学の火を灯します。

先週は 46,726 ダウンロードでした。
いつもご愛聴いただきありがとうございます。

お知らせ
教科書が教えないホットな科学の講演会のお知らせ
    第12回 テーマ:
 2008年12月13日(土曜日) 10:00〜11:30
 山口県下関市立彦島図書館(地図) 2階視聴覚室
 入場無料・事前申込み不要・途中入退室可
6月21日 書籍発売
    何がスゴイか? 万能細胞 (技術評論社)
     
自宅のパソコンが天体望遠鏡に変わる!無料ソフトウエア
    マイクロソフト「WorldWide Telescope
 NASAのハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、世界中の観測所や高性能望遠鏡によって撮影された天体写真をソフト上で継ぎ目なくつなぎ合わせた「宇宙全体のバーチャルマップ」です。ごく簡単な操作で、プラネタリウムのように夜空全体を見渡して楽しんだり、気になる惑星や星雲を見つけてどこまでも近づいていったりといったことができます。
     
スペシャルコンテンツ
彦島図書館文化講演会
教科書が教えないホットな科学の講演会
第9回 かもし力2
    2008年6月14日に終了しました。講演の様子をオンデマンド配信しています>>こちらからどうぞ 
彦島図書館文化講演会
教科書が教えないホットな科学の講演会
第8回 地球の気候変動
    2008年4月12日に終了しました。講演の様子をオンデマンド配信しています>>こちらからどうぞ 
ヴォイニッチの科学書ミュージアムショップ
まぐろぐヴォイニッチ
    科学に関する余談やポッドキャスト以外の情報はこちらへ
     


トップページ
番組コンセプトバックナンバー

 「ヴォイニッチの科学書」のダウンロード・ストリーミング再生は無料です。お気軽におためし下さい。

 ヴォイニッチの科学書は印税によって資料購入やサーバーの維持を行っています。コンプライアンス上、寄付等は受け付けておりませんのでご了承下さい。

本も書いてます





 このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。
 「ヴォイニッチの科学書」では毎週最新の科学情報をわかりやすく解説しています。番組コンセプトはこちらをご覧ください。>>クリック 

番組はいろいろな方法で聴くことができます。

□くりらじで聴く
 くりらじ(http://www.c-radio.net/)の「ヴォイニッチの科学書」をクリックしてください。ファイルは Real と MP3 がお選びいただけます。

□iTunes で聴く
 iTunes をお使いの方はウインドウ右上の検索窓に「くりらじ」と入力して検索してください。

[この番組の担当は・・・]

ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長


[他局の科学番組]

地上波ラジオ
中川翔子のギザサイエンス (ニッポン放送 毎週土曜日21:30〜)

地上波ラジオ&ポッドキャスト
サイエンスサイトーク (TBSラジオ 毎週日曜日 21:00〜)

テレビ
ディスカバリーチャンネル
解体新ショー (NHK総合 毎週土曜日 22:00〜)
サイエンスゼロ (NHK教育 毎週土曜日 23:45〜)
科学大好き土よう塾 (NHK教育 毎週土曜日9:15〜)
地球ドラマチィック (NHK教育 毎週水曜日 19:00〜)
素敵な宇宙船地球号 (テレビ朝日系 毎週日曜日 23:00〜)

テレビ&ストリーミング
サイエンスチャンネル (SkyPerfecTV 765ch)


↓こちらもご利用下さい↓