2008年10月4日
Chapter-215 サイエンスニュースフラッシュ 2008年9月号

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●洗濯物が臭くなる理由がわかった

花王株式会社が、これまで謎だった洗濯物を室内干ししたときの生乾きのニオイの原因を発見しました。このにおいは皮膚に存在している表皮ブドウ球菌という細菌が洗濯物に残った身体の汚れであるタンパク質や脂肪分を栄養としてニオイのもとになる物質を作っているようです。

●細胞から立体的な臓器を作り出すことに成功

 カエルの体内で、心臓や膵臓(すいぞう)を丸ごと作ることに東京大学の研究チームが成功しました。
 5000〜1万個ほどの細胞のかたまりまで育ったカエルの卵から、アニマルキャップと名付けられた細胞の集団を切り出して培養すると臓器の細胞のかたまりに変化します。このかたまりをいったん1個ずつばらばらにする操作を行い、アクチビンと呼ばれる細胞の成長をコントロールするタンパク質を添加した上で、若いオタマジャクシの腹部に移植したところ、オタマジャクシに2個目の心臓や膵臓が出来、心臓は血管とつながって拍動し、膵臓はインスリンなどのホルモンを作り出すなど、正常に機能し、細胞から臓器を作り出すことに成功したことが確認されました。

●クマムシの生命力に関する新たな研究成果

 クマムシについてはこちらをご覧下さい。
クマムシの生命力は動物の中ではずば抜けており、乾燥や低温など極限状態に強いことはこれまでの実験で確認されていましたが、宇宙空間で生きられるのかどうかについてはわかっていませんでした。
今回、スウェーデンのクリシャンスタード大学の研究者らが地球を周回する欧州宇宙機関の無人宇宙船を使って実験を行ったところ、クマムシは宇宙空間に約10日間さらされた後も、何割かは生還して繁殖もできたことがわかりました。宇宙の真空状態を生き延びたのは菌類では例がありますが、動物では初めてのことです。

●チクングニヤ熱に注意を

チクングニヤ熱は発熱や激しい頭痛、関節の痛みを主な症状とし、蚊がウイルスを媒介することによって人から人へと伝染し、アフリカ、南アジア、東南アジアでまん延している病気です。ワクチンはなく治療も対症療法しかありません。
 日本でチクングニヤ熱が特に警戒される理由は、日本に広く生息するヒトスジシマカが、ほかの蚊に比べ体内でこのウイルスを増殖しやすいことがわかっているためです。日本同様にヒトスジシマカが生息するイタリア北部では2007年夏、インドからの帰国者がきっかけとみられるチクングニヤ熱の流行が発生し、約300人の患者が出て1人が死亡しています。
もともとは怖い病気という認識はなかったチクングニヤ熱ですが、各国で死亡例が確認され始め、特に日本やヨーロッパなどこれまでの蔓延地域とは全く環境の異なる地域へ移動した場合、ウイルスがより活発になり、劇症化する可能性があることが指摘されています。

●超新星でのレアメタル生成

理化学研究所が日本のX線天文衛星「すざく」を用いた観測でカシオペヤ座の「ティコの超新星」と名付けられた超新星の残骸にはレアメタルの一種であるクロムやマンガンが大量に生成していることを発見しました。
レアメタルについてはこちらをご覧下さい。
通常の超新星爆発においては鉄が大量に放出されることが知られていますが、クロムやマンガンは超新星の核融合反応が不完全だったときに生成され、ティコの超新星ではクロムやマンガンの量は鉄の50分の1もあったということです。

●意外と世界で初めてだった外洋での親ウナギの捕獲

 水産庁などの研究チームが東京から南に2400キロ離れたマリアナ諸島近海の太平洋の水深200〜350メートルの地点で親ウナギ5匹の捕獲に成功しました。ウナギの生態には謎が多く、親ウナギが海洋で捕獲されたのは意外にもこれが世界初のことです。この海域は2005年に東京大学の研究チームがウナギの子供の捕獲に成功した地点とほぼ同じです。
ウナギについてはこちらをご覧下さい
この付近がウナギの産卵場所であることがほぼ確定したため、今後、この海域の海水の成分などを詳細に調査することによって、ウナギの稚魚であるシラスウナギの大量生産技術の開発など、ウナギの養殖事業へのフィードバックが期待されています。

●ブラックホールは銀河を飲み込めない

 ほとんどの銀河の中心部分には質量が太陽の10億倍もある超巨大ブラックホールが存在していることがわかっています。この巨大ブラックホールはやがて銀河を丸ごと飲み込んでしまうのだろうかと考えた学者がいました。
米国エール大学の研究チームがさまざまな銀河中心ブラックホールを調べて、その質量と存在している数の統計を取ったところ、質量が太陽の100億倍を超えるブラックホールは存在しないという予測を得ることができました。このことは理論的にも説明することが可能だったため、ブラックホールはどんなに成長しても太陽の100億倍程度まででとどまり、銀河全体がブラックホールに飲み込まれるような事態は起きないものと結論づけられました。

●遺伝子はこんなことも決めているシリーズ「離婚」

 スウェーデン・カロリンスカ研究所などの研究で男性の結婚生活の成功と失敗に影響を与える遺伝子が見つかったということです。その遺伝子は、バソプレッシンというホルモンを脳内で受け止めるタンパク質の設計図が記録されており、遺伝子の変異によってこのタンパク質の構造が微妙に変化すると、その男性は、妻に不満を持たれている割合が高くなり、過去1年間に離婚など結婚生活が破たんしたか、その恐れのあった人の割合が、他の型の男性の2倍以上にもなるということです。

●中国が有人宇宙船の打ち上げに成功

 中国は2008年9月25日夜、有人宇宙船神舟7号の打ち上げに成功し、高度343キロの宇宙空間で中国初の宇宙飛行士による船外活動を行いました。神舟はロシアのソユーズ宇宙線の技術を導入し、中国が国産で開発した全長約9メートルの宇宙船で、1999年11月に1号の打ち上げに成功しました。その後、4号までの無人打ち上げに成功した後、2003年10月の5号で中国初の有人宇宙飛行に成功しています。自力で人間を宇宙に運んだのはロシア、アメリカに続き3カ国目となります。


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今週発行の第113号の話題は・・・・
 ・サイエンスニュースフラッシュ2008年9月号詳細
 ・超新星でのレアメタル生成
 ・ブラックホールは銀河を飲み込めない
 ・編集後記

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バックナンバー
   
Chapter-214 地熱発電の可能性
Chapter-213 夜行雲 / 天の川銀河で発見された新たな構造
Chapter-212 iPS細胞の応用
Chapter-211 長期記憶形成のメカニズムがわかり始めた
Chapter-210 サイエンスニュースフラッシュ 2008年7月 
Chapter-209 太陽電池飛行機
Chapter-208 ナメクジウオ!! 
Chapter-207 波力発電の現状
Chapter-206 サイエンスニュースフラッシュ 2008年6月号 
Chapter-205 植物のノアの方舟 
Chapter-204 iPS細胞が世界を動かす
Chapter-203 サイエンスニュースフラッシュ 2008年5月号
Chapter-202 医学の歴史上最も珍しい10の疾患 
Chapter-201 宇宙の話題を盛り合わせ
Chapter-200 PQQってなに?
Chapter-199 人類は7万年前に絶滅寸前の状態に追い込まれれていた
Chapter-198 サイエンスニュースフラッシュ 2008年4月号
Chapter-197 日焼け止めがサンゴの白化を促すことがわかった
Chapter-196 干からびた生物が元どおりに生き返るメカニズムを解明
Chapter-195 国際宇宙ステーションと「きぼう」
Chapter-194 サイエンスニュースフラッシュ 2008年2月 
Chapter-193 水星探査機ビーナスエクスプレス 
Chapter-192 脳機能に関する最新研究 
Chapter-191 サイエンスニュースフラッシュ 2008年1月
Chapter-190 超弦理論でブラックホール内部の構造が明らかになった
Chapter-189 ブラックカーボンと地球温暖化
Chapter-188 日本人が発明した垂直磁気記録
Chapter-187 サイエンスニュースフラッシュ 2007年12月
Chapter-186 お正月番外編「人を助ける へんな細菌すごい細菌」
Chapter-185 2007年に紹介した話題・その後
Chapter-184 脳機能に関するふたつの最新研究
Chapter-183 サイエンスアゴラ2007を振り返る
Chapter-182 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
Chapter-181 光が空間を伝わる様子を3次元の動画として記録・観察に世界で初めて成功 
Chapter-180 サイエンスニュースフラッシュ 2007年10月 


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[この番組の担当は・・・]

ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長


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