2008年12月20日
Chapter-222 私達が春を感じる仕組み
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多くの動物にとって春は恋の季節です。植物も含めほとんどの生物が冬モードから春モードへの切り替えのきっかけとして昼間の日の長さを利用していることが明らかになっています。このような、光に反応して生物が活動のリズムを調整することを「光周性」と呼びます。動物では春への気候の変化は甲状腺という臓器に作用してホルモンを分泌させ、脳の視床下部に春の情報を伝達して代謝や成長を制御しているらしいということはわかっています。
動物がきまった季節に発情期になければならない理由は食べ物です。野生の動物にとっては、食べ物の豊富な季節とそうではない季節があります。そのような環境で動物が確実に子孫を残すためには、食べ物の量にあわせた繁殖計画を立てる必要があります。つまり、食料が豊富な季節に出産や産卵を行い、生まれたばかりの子供が飢えないようにする必要があると言うことです。ですので、春に発情期になれば、食料としての昆虫がたくさん活動している夏から、植物が実を付ける実りの秋にかけて出産することが可能となり、その季節に生まれた子供はそれ以外の季節よりも食べ物に恵まれますので、生き抜く確率が高くなります。また、ヤギやヒツジは秋が発情期で妊娠期間は半年です。これは、草を食べるこれらの動物にとっては、柔らかくて食べやすい若い草が生える春が出産にちょうど良い季節であるためです。
脳の視床下部内側基底部という領域を電気破壊によって破壊すると光周性が失われることから、この部分が光を感じ取っていることがわかっています。
人間や鳥などの脊椎動物は、夜間、脳の松果体からメラトニンというホルモンが分泌されます。メラトニンの分泌時間は夜の長さに反応し、体内時計が時間を計測しています。体内時計は光を感じる脳の領域と同じ視床下部内側基底部にあることが明らかになっています。また、脊椎動物では、生殖腺の発達を促すホルモンも下垂体前葉からの性腺刺激ホルモンの分泌を介して分泌されることもわかっていますので、季節の変化と発情に関するすべての機能が視床下部にあることになります。
原著の筆者らは、人工的に冬と同じ時間の光を当てて育てたウズラに、人為的に長時間光を照射した結果、甲状腺ホルモンの濃度が増加することを確認しました。さらに、甲状腺から放出された甲状腺ホルモンを受け取って全身に指令を出す部位がどこにあるのかを調べたところ、驚いたことに性腺刺激ホルモンの放出を指示するニューロンの領域にあることがわかりました。
研究者らは哺乳類においても同様の調査を行い、日が長くなると繁殖活動を始めるハムスターやラット、逆に、日が短くなると繁殖活動をするヤギにおいても同様の仕組みが存在することを確認したということです。
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